トップ>同人活動記録>ELFARIA非公式ノベライズ[1] INDEX>1章 水の国カナーナ 3-1
ELFARIA [1] 3-1 水の聖地ハンブはスンガの北、海を見渡せる所にある。 ここを鎮めればパイン達の最初の目標は達成できるわけだが、彼らはスンガの西にあるガルの山に入っていた。 実はスンガの解放後にハンブに入ったものの、聖地へと通じるラの神殿の周りには毒の花畑が広がっていて(魔物さえいなければ、普段は美しい花畑のはずである)先に進めなかったのである。強行突破はあまりにも危険だろうという判断のもと、彼らは引き返したのだった。 そこで、毒の花に詳しい人物がいないかスンガで聞き込み、この山に籠もっている植物博士のガンドラスを紹介されて、彼を訪ねることになった。幸いにもガンドラスは山の麓にいて、毒の花対策用の草の干したものを快く大量に分けてくれたので、ここの用事そのものは簡単に終わったのである。 だが、ガンドラスに会ってから一時経っても、彼らはまだ山の麓にいた。 「おお、ではアガリア種の新種が……」 「いや、その育て方を元にするのがいけないのであって……」 「では現に帝国領では……」 ロマの老博士と植物博士の論議は、太陽が傾きかけている今もなお続いている。 ウッパラーは薬学博士でもあり、ロマの家には見事な薬草栽培の畑がある。そこへ植物博士と遭遇したものだから、話は大いに盛り上がっているのだ。もちろん帝国と戦っている最中なのはわかっているのだろうが、これから未知のものと出会っていく事を思うと、どんな知識でも何かの役に立つかもしれない。そう考えれば少しの足止めも致し方なし、というところである。 その間、他の三人はその場に留まって、分けてもらった毒消しの草を揉みほぐしていた。草の中にある白い粉を撒くと毒の花の動きを抑制できるということで、せっせとかき集めているのである。 「こんな事なら、ロス砦の偵察組に回っておけば良かったって思ってるんじゃない? パイン」 「いいよ、別に。こういうの嫌いじゃないし」 ラゼルの揶揄にも、パインは動じなかった。こういった地味な事も研究者の仕事としては日常茶飯事である。 聖地を鎮めに行ったパイン達とは別に、アルディス達は王都方面に立ち塞がるロス砦の攻略を練るために自ら偵察に出ている。ちなみに、相当な怪我を負い、満足に動けないと思われていたジェニスは早く回復して、アルディスを手伝うのだと元気な姿で息巻いていた。 その様子を思い出し、パインはため息をついた。 「やっぱり戦いが本職の人は凄いね。僕にはああいう真似はできないよ」 「そういう理由じゃないんじゃない? ジェニスさんの場合」 「どうして」 「だって、どう見てもアルディスさんにベタ惚れしてるじゃない。愛の力なのよ」 「……そういうものじゃ、ないと思う」 「そうかな〜。あそこまでできる人ってそういう理由だと思うんだけど」 そんなふたりの不毛な会話に参加することなく、ジーンは粛々と粉を回収している。この話題に興味がないのか、対応しきれないのか、その真意は定かではない。 結局ウッパラーが戻ってくるのにそれから半時かかり、ガルの山からスンガに戻る頃にはほとんど陽が沈みかけていた。 夜間の戦いは避け、明日の早朝にハンブへ発つことを決めて、町から提供されている屋敷に戻ると、ファーミアが出迎えてきた。こちらも元気そうである。 「お戻りになったんですね、おかえりなさい」 「そっちはどう? うまくいってる?」 同い年の気安さからラゼルがファーミアに訊くと、 「とりあえず、アルディスさん達はロスから戻って、砦の兵士の方と見取り図を見てます」 こちらは割合順調であると告げていた。 兜を取ったジーンが、ファーミアに丁重に尋ねる。 「ロスの生き残りが居たのですか?」 「ええ。大半の方はうまく逃げ延びていたようです」 「そうですか……。すみません、ちょっと彼らに会ってきます」 王の近衛という立場を思い出したのかジーンは足早に奥へと消えていった。 それを見送ると、パイン達三人は思い思いに散会しようとしたが、ファーミアに引き止められた。 「あの、少し気になっていた事があるのですが……」 「何?」 「パインさん達はエルルさんから水の聖地を鎮めるように言われているんですよね?」 「うん。ブルージェムを貰ったし。それが?」 「あの……。『火』の力をお持ちになっていなければ、聖地は戻せないはずなんです」 ファーミアの一言に、それまでの和気は急にしぼみ始めた。 聖地を戻せなければ、ここまで来た意味は半分近く消失してしまう。意義に関して言えば、それ以上だろう。それに『火』の力というのも、いまいちわからない。 「どういうことだい?」 「わたしは水の聖地の巫女でしたので少しわかるのですが、聖地のしるしというのは、水土風火いずれかのラに記された方でないと外れないようになっているんです。誰にでも外せてしまったらすぐにラの力は乱れてしまいますから。 「けど、聖地のしるしを付け替えたのは、帝国のゾーラっていう魔法使いだろう?」 これまでの旅で、パイン達は聖地を乱した張本人の事を人々から聞いていた。ハンブを占領した直後に現れて、水のしるしと火のしるしを無理矢理付け替えたという話である。 「そいつは、その特別な力に記されているのかい?」 「多分、それはないと思います……。 「だったら、パインが『火』の力を持っているんじゃない? エルルはパインに聖地を戻してって言ったんだから」 「そんなに都合よくいくかな……」 「さあどうじゃろうな。もしそうなら、『ラの勇者』の再来になるんだが」 「何それ?」 孫の問いに、ウッパラーはひとつ咳払いをして答えた。 「十五年前、エルファリアに『ラの勇者』が現れたのじゃよ。十六人おったその中に水土風火のラの力を持っとった人がいてそう呼ばれるようになったんじゃな。その人達は大層強くてな、帝国の強力な魔物をものともせずにシーラルを追い詰めたのじゃよ。だが、あと一歩のところで日食に間に合わなくて最後には負けてしもうたがの」 「負けちゃったの?」 「勝っとったら、こんな事にはなっとらんのぅ」 「なんか、縁起悪そう……」 「ほっほっ、口の減らぬ孫じゃのう。ともかく、聖地に行ってみれば、パインがそうかどうかはわかることじゃて」 ウッパラーは気楽に言ってくれるが、パインにはあまり気分のいい事ではなかった。心当たりがないのである。 「僕が『火』の力を持っているとは思えないんだけどな……」 「でしたら、聖地の神官様を訪ねてみてはどうでしょう。あの方なら、力のある人を見分けられますから」 そうして話が一段落したところで、ファーミアが辞去の言葉を述べて三人と別れた。寝室へと向かっていく。 ラゼルは残ったふたりにじゃあね、と言い置いて素早くファーミアの横に並ぶ。 「ねぇ、聖地の巫女さんだったの?」 「ええ。つい最近までそうでした」 「どうして辞めちゃったの?」 ラゼルの直接的な質問にも、ファーミアは機嫌を損ねずに淡々と語り始めた。 「聖地で仕える人間は世俗の争いに関わってはいけないことになっているんです。でも、スンガでの攻防戦を放っておけなくなって駆けつけてしまって……アルディスさん達を見ていたら力を貸せないものかと思って、それで聖地に戻るのはやめてしまったんです。どのみち、もう巫女には戻れませんけど。 「いいわよ謝らなくて。ほら、もちょっと柔らかくいこうよ。同い年なんだし」 「そうですね」 少女ふたりがくすくすと笑う一方で、パインはアルディス達のいる居間を訪ねていた。 大きいテーブルを幾人かの屈強な兵士が囲み、それだけでも威圧感のようなものが押し寄せてくる。 それをどうにか押し切って、アルディスの隣に立った。 「こっちはどうですか?」 「攻略そのものはどうにかなりそうだ。メルドの技術のおかげで、魔物相手の戦闘も格段に楽になった。だがな……砦の入口に『火の門』という結界が張られていて手が出せない」 「結界ですか?」 「アーバルス老師に見てもらったんだが、氷の魔法で消せるような代物ではないらしい。しるしを手にした『火』の力の者が自在に制御できるものだと聞いたが、そんな奴がどこにいるのやら」 「また『火』ですか……」 ため息をついたのをアルディスに訝られ、聖地の方も同じことで手詰まりになりそうだと説明した。 「もしかしたら僕じゃないかっていう話も出てますけど、そうじゃなかったら完全にお手上げになりますし」 「確かにな……。だがわざわざ君を選んだのだから、エルルにも考えがあるんだろう」 「ええ。とりあえず明日行ってみて、あとはそれからですね」 |