トップ同人活動記録ELFARIA非公式ノベライズ[1] INDEX>序章 1



ELFARIA [1] 0-1



 老人の夢見は日ごとにひどくなっていた。

 最初の夢で世界中の草木がことごとく枯れ始め、次の夢でラの泉が変色してやはり次々と枯れてゆき、この日は干からびた大地が端から砕けて海の中へ消えていった。

 しかしそれは夢でしかなく、うっすらと汗をかいて目覚めた老人が外に出てみると、霊峰の朝は霧のけぶる穏やかな時を刻んでいた。いつも通りの静かな――だがラの力が順応するこの光景に、異変の兆しは全く感じられない。

 老人は安堵の息を漏らしたものの、次の瞬間にはため息をつきながら肩を落としていた。

 こうした夢を連続して見ることは警鐘の証である。今は何も起こっていなくても、そう遠くないうちに重大な何かが起こるのはもう決まったようなものだった。

 老人は重い足取りで山頂の神殿に戻ると、この山の麓近くにいるある少女に宛てて鳥を放った。鳥の脚には、ここに来るようにとの短い文をつけてある。

 少女が来るまでの間、老人は神殿の前を歩きながら考えに耽っていた。

 世界の崩壊をそのまま具現した夢。彼の知る限り、そんなことが起こる理由はただひとつ、古代のエルフ王にして禁断の魔物と化したエルザードの力を使うことだった。

 この霊峰から南西の方角にあるザザ寺院に、エルザードは封じられている。封印に際してひどく複雑な手順を用いたため、この開封は何人たりともかなうことはない。だが、十五年に一度の日食の時に限り、エルザードのいる地下から放出されるラは強くなる。この時に寺院の最奥部で秘法の杖を使う儀式を行うと、エルザードの力を得ることができてしまうのだった。

 世界を破滅寸前に追い込んだエルザードの力は危険極まりない。だが、世界を掌中に収めようという野心を持つ者の目には、ひどく魅力的に映る力だった。

「問題は、誰がそんな事を考えるのかということか……」

 ひとりごちる老人の耳に可憐な声音が届き、振り返ってみると、山頂への最後の坂を、金髪の少女が上がってきているところだった。

「おおエルル、よく来てくれた。待っておったぞ」

 少女が上がりきるのを待って、老人が労いの言葉をかけると、彼女は不安そうな表情を見せた。

「長老さま、どうなされたのですか? 只事ではないご様子ですけれど」

「フム……。悪い夢を見たのじゃよ……。世界が、壊れる夢じゃ……」

 老人の言葉に、エルルは厳しい顔つきになった。

 しかし自らが何かを言うことはせず、老人の次なる言葉を待っているようだった。

「儂の夢が外れてくれればと思うが、おそらく何者かがエルザードの力を得ようとしておるのじゃろう……」

「だとすると、その方法は既に暴かれてしまったのではありませんか?」

 エルルの受け答えに老人は満足していた。ここで怯えてしまうような者では、この先を任せることはできない。

「このまま手をこまねいていては、その者の思う壺じゃ。日食の日の儀式を何としても阻止せねばならん。そこで、おぬしに動いてもらいたいのじゃ」





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