トップ同人活動記録FE聖戦 風パティ小説 INDEX>六 物とのつきあい方 3



HOLPATTY 6-3




 三人は前もって二人が示し合わせていたとされるバーハラの民家に入ると、スカサハと一瞬で不機嫌になったラクチェに迎えられた。オイフェもいるのだが、この二人のせいで存在が霞んでしまう。

 ラクチェがパティに食ってかかってきた。

「どうしてあんたがいるのよ」

 すかさずシャナンが割って入る。

「まぁ、待て。お前達の事よりも先に片付けなくてはならない問題ができた」

「この子のやった悪事に関してですか」

 ラクチェの毒舌は止まらない。

「そうではない。セリスとパティの事だ。どうも決心は揺るがないみたいでな、少し困ってる」

「えぇ? もういいんじゃなかったの?」

 今度はパティがふてくされた。

 シャナンがパティを軽く制する。

「ホーク殿の事以外に、パティの言い分を聞いていないのでな。セリスに欠けたところがあったら教えてほしい」

 シャナンはエーディンを椅子に座らせて、他の面々も椅子に座るように促した。一つ足りないため、シャナンが立つことになる。

 何だか裁判のように見えなくもない。

「では、改めて訊くがセリスの花嫁になるつもりはないか?」

「ありません」

「わたしの頼みだと言ってもか」

「ヤです」

 断言であった。

「だったら、さっきの理由の他に何かあれば言ってほしい」

「何言ってもいいの?」

「聞く事を聞かなくては始まらないだろう」

 パティは少しだけ口元に笑みを見せた。

「あのね。あたし、いかにも甘やかされてきたっていうお坊ちゃんタイプって嫌なの。これでもかってくらいに手をかけてあげないと不機嫌になるんだもん」

 この発言に関して男性陣は総じて胃の痛い思いをした。対する女性陣は元気である。

「あら、オイフェ達の教育が悪かったのかしら」

 エーディンが天然の入った事を言えば、ラクチェは先程の不機嫌顔から一変してパティの味方になった。

「やっぱり普通だったらセリス様の扱われ方はおかしいと思うわよね」

 これはティルナノグ内では違法である。

 パティが気をそそられてラクチェに訊く。

「箱に入れられてたとか?」

「箱っていうか……我儘放題の王様ね。剣の練習なんかほとんどしないし、大事な身だから寂しくないようにってラナかマナがいつもついてなきゃいけなかったの。あの二人も小さい頃はそれで良かったみたいだけど、今のセリス様見たらあっさり幻滅したわね。ユリアさまにベタベタくっついてたかと思えば、今度は別の女の子のお尻追っかけてるんだもの。パティが求婚を蹴るのは正しい選択だと思うわ」

 ここまで言われては弁解の余地は全くない。さすがのシャナンも降参せざるを得なかった。

 お前らそこまで言うことはないだろうと精一杯の抵抗のつもりか、顔にそう書いてある。

「……そこまで言うなら仕方がない。セリスは我々でどうにか説得する」

「ほんと?」

「そうでもしなければ、セリスが荒れるからな」

 その表情からは疲れが窺えたが、嘆いている場合ではなかったのだろう。すぐに立ち直った。

「では、本題に移るとしよう」

 シャナンがエーディンから包みを受け取り、スカサマの前で解く。

 何かの杖のようである。

「これが何かわかるか?」

「いえ……」

 スカサハは困惑しているように見えた。いつものようにラクチェの引きとめ役をやっていたせいで、こういう時の主役はラクチェだと思っていたのだろう。

「これは叔母上の夫君……お前達の父が持っていた物だ」

 スカサハとラクチェがその言葉に敏感に反応する。

 シャナンはそしらぬ顔で続けた。

「これはバルキリーの杖という。聖遺物の一つだ」

「では、父とは……」

 スカサハの問いにエーディンが穏やかに答えた。

「ブラギの直系であり、エッダ公でもあるクロード様です。隠していたけれど、直系のしるしはあなたに出ているの。ただ、ご両親があなたの身を案じて印を封じました。この杖はクロード様からわたしが預かっていたのです。
 グランベルに反逆をはたらいたとされる十二聖戦士の直系をかくまうのはセリスだけで精一杯だったから。
 本当はずっと黙っておこうと思いました。けれど……やはり、自分のことは自分で決めるべきと思って」

 スカサハは難しい思考に苛まれる顔をしていた。

「俺に……エッダの跡継ぎになれってことですか」

「それもひとつの道です。放棄してもかまいません」

 ラクチェが口を挟む。

「でも、おばさま。聖戦死の家を途切れさせるのは良くないことではありませんか?」

「そう……と言いたいところですが、わたしにその強制力はありません。聖遺物は人を選びます。また、その人の意志で聖遺物のありかたも決まるのです」

 エーディンの言葉に、パティは胸の内で納得した。エーディンは、他人事の話を黙って聞いていろとここに置いたわけではないのだ。パティがレヴィンの娘だとわかってからの短い時間で、よくそこまで頭が回ったものだと感心する。

 パティの中ではすでにこの決着はついている。ただ、人の立場になって考えることはいままでなかった。

 そうするには、ここは絶好の場面である。

 パティもスカサハも魔法の才に恵まれているとはいえない。それを背負う意味を問われてどう行動をとるかが問題になる。

 パティがセティの直系としての役割を捨てたのは、パティ自身がそうありたくなかったからだ。

 だが、スカサハは、あの性格だとパティと同じようになるとは思えなかった。

 そして、その予感は的中する……。

「俺は魔法を使う事は長けていません。けれど、戦いが終わった今、剣を捨てる時が近づいていると思います」

 しばらくは剣で調停をする機会もあるだろうが、それは戦いの剣とは意味が異なる。

「結論を急いで出す必要はない。唐突だった事は承知の上だ」

 ゆっくり考えてくれと言ってからシャナンがオイフェに目配せした。

 が、スカサハは早々と結論を出した。

「エッダへ行きます。ブラギの直系としては相応しくないかもしれませんが、できることはあるはずです」

「自分が何言ってるかわかってるの、スカサハ」

 立ち上がりかけたラクチェを、スカサハが諭す。

「いつまでもお前と二人三脚をしているわけにはいかないんだよ。俺だってもう独り立ちしないと」

「でも、やっぱり心配じゃない」

「そんなに思うならドズルから様子を見にくればいいだろ。幸い、そんなに遠くないし。

 シャナン様、バルキリーの杖をいただけますか」

「それは構わんが、本当にいいのか?」

「この先どうなるにしても俺次第ですから」

 下手をすれば傲慢にとられる言葉を出すということはそれほどの覚悟がある事をあらわす。

 シャナンは少しの間考えるように目を伏せてから、杖を渡した。

「わたしもお前の姿勢を見習っていくとしよう」

 一件落着の様子を見て、パティはエーディンに、行くの? と外を指さした。

 エーディンがにこやかに笑みを返して、立ち上がった。

「わたしはこれで失礼しますね。急ぎの用事があるから」

 ラクチェを筆頭として一同から抗議の声が上がったが、それをほぼ無視する形で二人は民家を出た。





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