トップ同人活動記録FE聖戦 風パティ小説 INDEX>一 戦わぬ継承者 2



HOLPATTY 1-2




 見張りがいなくなった西の門は簡単に突破された。

 首謀者はパティ、他は兄貴と城門前にいたお友達で構成されている。

 レヴィンらしき人物の制止が聞こえた気はしたが、当然無視して突っ込んでいく。パティはナンナの馬に乗せてもらい、残る一騎のデルムッドの後ろにはレイリアが乗っている。ファバル、アサエロ、ホークはただ全力で走るのみだった。

 ナンナが前を見ながらパティに言う。

「何か手はあるんでしょ?」

「ううん。別にそんなの考えてない。どうせ皇帝を倒すのはセリス様だし、あたし達は助けることしかできないでしょ?
 皇帝の魔法って凄そうだもん」

 パティはセリスがたった一人でシアルフィ城に入ったのを危ぶんでいた。いくら聖戦士の直系だからといっても、かつて魔道の天才と呼ばれたアルヴィスに単独で勝てるとは思えなかったのだ。

 そこで、数でかかって逸らしていけば少しはやりやすくなるのでは……とその程度の動機で人を集めて、突入に至る。

 先にファバルと話していたように、報奨金の上乗せを期待しての動きでもあるが、一応総大将を心配しての行動だということになっている。

 パティは少しだけ後ろを振り返った。

 城内の都合で、馬は少し遅く、さらに進める速さを遅れさせて、地上走者とのバランスをとっていた。

 が、さらなる後方では早くもパティ達を追って来ている人の波があった。その先頭は禁止令を出したオイフェである。

 パティはお髭の御仁の登場に舌を出した。

「まずったなぁ……」

 セリスが勝とうが一時撤退になろうが、ことが終わってからオイフェに雷を落とされるのはほぼ間違いない。パティ達は規律違反を犯していて、しかも馬で入っている。

 デルムッドとナンナの馬は玉座の間の大扉の前で止まった。馬が足を止めると共に騎乗の四人は馬から降り、追いついてくるファバル達と合流する。

 少し開いている大扉の内側は赤の明滅による照り返しがしていた。

「行こう」

 そう言ってホークがサイレスの杖を手に先頭に立てば、パティは開き気味の扉に手をかけた。二人の後ろにファバルとアサエロ、更に後ろにレイリアを真ん中にしてデルムッドとナンナが横に並ぶ。

 パティが扉を引き開けると同時に、中から魔法の炎が吹きつけてきた。

 すかさずホークがサイレスの杖の力を解放して襲いかかった炎をかき消す。

 予想外の効果に、パティは目をまたたかせた。

「効いたの?」

「今のは一時凌ぎだ。これだけで杖の消耗がひどいし、セリス様の聖剣が皇帝のファラフレイムを幾分かおさえてくれているからできたと言ってもいい。炎を消す以上の(正常な)効果をサイレスに要求するのは無理だ」

 開け放たれた扉の先ではセリスが炎に耐えている。

「でもあのままじゃ、セリス様保たないんじゃないの?」

「悠長なことを言うね。……放ってはおけないだろうに」

「まぁね♪」

 パティがスマイルを投げかけると、その両脇から幾つもの矢が通った。

 思わずホークは目を剥いた。前方にはセリスもいる。並の射手ならセリスに矢が当たってしまうだろう。

 しかし、二人は並ではなかった。

 アサエロの銀の弓からアルヴィスに当たる矢はなかったが、動きを制限させる。その相乗効果でファバルのキラーボウがわずかながらアルヴィスをとらえた。

 もちろんアルヴィスも黙って見ているわけがなく、矢をめがけてファイアーを放ってきた。

「この程度で余を斃す気か、庶出の者よ」

 アルヴィスの言葉に、ファバルは怯まずに答える。

「これで充分なんだよ」

 ファバルはアルヴィスに向かって不敵に笑う。

 そこへパティを加え、兄妹で各々得物を構えて、セリスの前に躍り出た。パティは雷の剣を持っている。

 臨戦態勢であることを忘れて、ファバルは妹を咎める。

「わざわざそんな重いものにしたのか?」

「炎には雷がいいってホーク様に教わったもの」

「おまえ、一応風の娘だろうが」

「その通りにしたら焼かれちゃうじゃない」

 論旨のズレた兄妹を誰も止めない代わりに、少なくとも状況整理をしようとセリスを除く五人が動き出した。

 ナンナとホークが杖の力でセリスを治し、アサエロが遊撃に回るのを見てデルムッドがセリスの前に立ち、レイリアはパティとファバルの間に入った。

「最初はわたしが引き受けるわ」

 皆にまとめてウィンクすると、レイリアは先頭に出て視線高くアルヴィスを見据えた。

 その瞳は兄弟な力を持つ皇帝に負けていない。

「来られるがよろしい!」

 魔法抵抗の剣を抜くと、それを合図にしたようにファイアーの魔法が飛んできた。

 舞姫は眉一つ動かさずに、丁度真正面に来た炎を斬り捨てる。

 双方退かない立ち合いにパティが声を上げた。

「かっこいい〜。惚れるわぁ〜♪」

「そんなこと言ってないで、パティも動けよ」

 ファバルに冷静に突っ込まれて、パティは自分を取り戻す。

「あら、あたしの出番はもう少し後だもの。まだまだ」

 手を手で揉むパティの仕草に怪しいものを感じ、ファバルはぼそりと言った。

「……敵さんの財布を盗もうとは思ってないだろうな」

 残る六人(含アルヴィス)は耳を疑った。

「……財布?」

 誰かの呟きは、あの兄妹には届かなかった。

 こんな時に何を言っていやがる、との目線での集中砲火受けるファバルは頭をかきながら視線を宙にさまよわせた。

「ちょっと無茶苦茶だったかな」

「ちょっとどころじゃないわよ。皇帝がこんなところに持ち金を置いてるわけないでしょ」

 そういう問題ではない。

 が、そんな突っ込みがパティの耳に届くことはない。

 パティはマイペースのまま話を続ける。

「でも、お兄ちゃんイイ線いってる」

「いい線?」

 ファバルの問いに頷いて、背負っていた小袋を下ろした。

「こんな時じゃないと言うに言えないし。直接じゃないけど母さんの右腕を奪った人だから」

「皇帝に恨み言のひとつでも言おうって?」

 笑って頷いて、パティは息を大きく吸い込み……首を傾げた。わずかに考えた様子をみせてから息を吐く。

「やっぱ……やめるわ」

 唐突に言って、パティは袋を持ち背を向けた。

 一番手にいたはずのレイリアと、ファバルが状況を気にしつつパティにつく。

「パティ……」

「どうしたんだよ、何を言うかと構えていたのに」

 それは違うでしょと内心でファバルに突っ込んでから、パティは軽く肩をすくめた。

「もういいやって思ったの。これ言って何かが変わるわけじゃないし。言おうって決めただけで、何となく気が済んだ。
 あとはセリス様にお任せするから、あたし帰るね」

 勝手な宣言をして、パティはこの部屋を出ようと大扉の所まで来た。しかし、大きな影が二つ行く手を塞いでいる。

 オイフェとレヴィンだった。

 オイフェはパティを見るわけではなく、銀の剣を鞘ごと握りしめてアルヴィスを睨みつけていた。その剣は元々セリスが持っていて、シグルドからセリスの受け継がれた物だった。

 どうしたのだろうとパティが思っていると、レヴィンが話しかけてきた。イチイバルは持っていない。

「もう行くのか」

「あたしがいても邪魔になるだけだもん。用は済んだし。そうだ、これ返すね」

 そう言ってパティが取り出したのはフォルセティの魔道書だった。

「あたしじゃ、使えないみたいだから」

「おまえが持て。わたしにはもう要らないものだ」

 返還を拒むレヴィンにパティは口を尖らせた。

「あたし、魔法なんか使えないよ?」

「それ自体は関係ない。継ぐ資格は聖痕があるかどうかだけだ。左腕にあるのだから間違いない」

 そうして話しているうちに、玉座の間の戦況が動いた。

 杖の力で一応は復帰したセリスがファバルの前に立ち、聖剣を構えると十はあるであろうファイアーの魔法が玉座の間を飛び交った。レイリアが舞うようにひとつひとつを叩き斬り、ナンナがリライブの杖を手に全員を回るべく奔走する。ファバルとアサエロは玉座を中心として左右に散り、矢を射かけ始めた。ホークがファイアーにライトニングで対抗し、デルムッドはセリスの左側に出て楯になるように炎の剣を抜き放つ。

 パティは呆然と多数対一の大戦を見ていた。

「これで雷と風がそろったら魔法大戦だよねぇ……」

「呼んだ?」

 タイミング良く顔を出したのはこれ見よがしにトローンとエルウインドの魔道書を持ったアミッドだった。そのかたわらには当然のようにリンダがいる。

「呼んじゃいないけど……あんた、あの中に入るの?」

「魔法に耐性の強い奴はセリス様の援護に行けって言われたんだよ。シャナン王子が走り回ってた。よっぽど心配なんだろうな」

 それなら一緒に禁止令を出さないで最初からそうしなさいよ、と内心でシャナンに毒づく。

 アミッドが注意するように言ってくる。

「そろそろラナやマナ達が来るから邪魔しないようにな」

 その言葉通りにラナとマナ、コープルとシャルロー、リーフがやってきた。

 彼らの持つ杖を見て、パティは嫌な気分になった。

 高位の杖というのはとても心強くお世話になったこともあるのだが、杖の先端のデザインが大問題だった。ラナの持つリザーブは手の平を上に向けたものがついていて、マナとコープルのリブローはどこかをさす指がある。今回はリカバーだが、シャルローがいつも持っているバサークなどは使う時に先端の半透明の球の中で人の形をした影がアチャコチャと踊る。

 だが、リーフの持つレスキューはその上を行く。杖の先端についている手の平には「Q」と刻まれており、使う時はもちろん、使わない時でも握りのところの小さい珠を回すことで『まねまね』と招くように動かす事ができる、可動式の杖なのだ。

 ……魔法に縁遠い者の目には、あれらのせいで戦場がひどくマヌケに見えて仕方がない、というのが本当の所だったが。

 だが、そのおマヌケさんに頼らねばならない現実もあるわけで、これ以上ダダをこねるわけにはいかなかった。

 彼らがやりやすいように両開きの扉を全開にして、パティは仕方なく玉座の間に少しだけ入った所に残った。出ていこうにも、後ろを人詰めで塞がれているのである。

 シャルローが緊張の面持ちでレイリアの元へと走っていく。かの舞姫が火傷を負うのは時間の問題だった。

 これから起こるであろう目の毒なもの(リブローもリザーブもやはり「指」が動く)を極力見ないようにするために、パティは扉のすぐそばの壁に背を張りつけた。

「ちょっといいかしら」

 リンダがパティに倣って壁に張りついてきた。手にはエルサンダーの魔道書と数少ないまともな杖のリライブ、オイフェが持っていたはずの銀の剣を持っていた。

 非常に個人的なことで悪いのだが、パティはリンダが苦手だった。このごろトードの血筋で凄まじい骨肉の戦いが繰り広げられているせいか、この辺りの人に普通に接するのが難しいというのが一番の原因である。

 アミッドは身の上がわかる前からのつきあいだったからまだいいが、リンダは初めて会った時からヒルダへの恨みを強く持っていた。一見、表情は穏やかだが、それがかえって恐い予感をさせる。

 できれば避けたい相手ではあった。

 しかし、非常時であるからそんなことにかまっている場合ではない。

「……何?」

「オイフェさんから、この剣をアルヴィス様に投げつけてほしいって頼まれたの」

「……」

 オイフェさんもあの紳士的な顔で無茶苦茶なことを言うわ、と心の中で思う。さすがにあたしでももっとマシなこと言うわよ、と。

 ……少し抗議の方向が一般とは違うようだが。

 リンダは穏やかな顔に、『困ったわ』というベールをまとわせている。

「でも、わたしではそこまで飛び込むことができないの」

 そりゃそうだろとパティは他人事ながら突っ込んだ。オイフェも人選を誤ることがあるらしい。

 だが、リンダはとんでもないことを言ってきたのだ。

「それで、パティにお願いしたいの」

 パティは聞き違いであることを祈って訊き返した。

「……何を」

「だから、わたしの代わりに……」

「その剣を皇帝に投げつけろって?」

 こくり、とリンダは頷いた。

 そこへトローンを右の掌に完成させたアミッドが来た。

「事は聞いただろ? それじゃ行こうか」

「待ちなさいよ、網戸!」

「誰がアミドだ、俺はアミッド!」

「網でも縄でもいいけど、ちょっと待ってよ。
 どうしてあたしなの? こういう言いだしっぺのオイフェさんが行くべきでしょ!」

 そういう問題でもない。

 それを知ってか知らずか、アミッドがしれっと答える。

「前のここの主人に認められるまで、負け犬のままじゃここには入れないとか言ってたけど?」

 すでに、前の主人ことシグルドは故人である。つまりはオイフェが自分で自分を認めないと入れないのだ。

 騎士というものはとてつもなく面倒なものだと思いながら、パティは銀の剣をリンダから受け取った。リンダよりも自分のほうがわずかならが適性があるのは目に見えている。

「何でこうなるのかなぁ……」

 わけのわからない事態になったが、それを考えるのは諦めて、パティの中では剣を投げつけるのが騎士の礼儀だと無理矢理思いこむことにした。

 多分、礼儀であるからには鞘ごとの方がいいのだろう。どうせだったら赤いリボンでもかけてやろうかと意気込んだ時、ある存在を思い出した。

「魔剣の王子様は? あの人も少しは魔法くらっても大丈夫でしょ?」

「あ、あの……」

 リンダがおずおずと言う。

「イシュタル姉様の魔法で……」

 ああそうかとアミッドが軽く頷いた。

「トールハンマー病で寝込んでるってラナから聞いたんだっけな。時々腰痛電気ショックが来るって言ってた」

 ここで高位魔法の恐怖発覚である。あの電撃美人・イシュタルも魔道書の副作用で何か持病を持っているのかもしれない。

 じゃ、なーくーて! パティは激しく頭を振ってどうにか正気を取り戻した。

 魔法使い達の調子に乗ってはいけないとどうにか落ち着かねば、こっちの頭がおかしくなってしまう。

 しっかりと銀の剣を持って前方を見据えた。

 大扉から流れるラナ・マナ・コープルプレゼンツの回復魔法の波に乗っていけば、ファイアー程度なら当たってしまってもすぐ完治する。痛みを味わうのは変わらないが心強いのも確かだ。

 目の前には魔法大戦。そんな所に剣を投げつけに行く。

 パティは頭の中で状況と行動を改めて確認したが、目は据わっていた。もうヤケクソである。

 アミッドが波に入り、駆け出すと共に掌の光球に触れ、次の瞬間には雷魔法の線が高速で部屋中を奔った。炎と戦う光に味方する形になる。

 パティはその光景に圧倒される。

「……すごい」

「えぇ……」

 リンダはほのかな感情を込めて言うと、パティの手を取って二人して波の中へと入った。

 ナンナとシャルローが杖を手に忙しく走り回り、ホークが引き続いてライトニングでアルヴィスに対抗する。レイリアとデルムッドが矢の尽きたファバルとアサエロをかばうように剣でファイアーを斬りつけるものの、四人には特に集中されていて弓使い二人が下がる隙が生まれない。ここまでは遠隔魔法がよく届かないようだった。

 しかし、セリスは聖剣を先頭で構えてアルヴィスが片手で放つファラフレイムを受け止めるだけだった。アルヴィスには斬られた跡が一つもない。

「セリス様……動かないね」

「えぇ……」

 リンダはふらりと波から外れてファバル達の所へと向かい、エルサンダーを唱えて四人の周囲にある炎を一掃する。

 と、その瞬間ファバルとアサエロの体が浮かび上がって後方へと引き寄せられるように姿を消した。リーフのまねまねレスキューがもたらした効果である。杖の指先運動が行われているのを想像して、パティは一切後ろを見なかった。

 戦力外となった邪魔者がいなくなって、パティは炎と雷・光の連合軍が相討つ中へと参上した。

 セリスとファラフレイムを迂回して、玉座に近づく。

 アルヴィスが左手でファラフレイム、右手ではファイアーを連発しながらも器用にしながらも器用にパティに話しかけてきた。ただし、視線はセリスに向いたままである。

「何をしに来た」

 アルヴィスの問いを半ば無視する形で、パティは沸きあがってきた疑問を投げかけた。

「……魔法、あたしに向けないの?」

「危害を加えぬ者はわかる」

「あぁ……そう」

 さすがだわ、と心の中で呟いてから、パティはしゃがみこんだ。

「じゃ、あ・げ・る

 アルヴィスの足元に剣を滑り込ませて、パティは全速力で逃げ出した。

 トローンを連発するアミッドが怒鳴る。

「投げつけるんじゃなかったのかよ!」

「できるわけないでしょ! 真剣勝負してるんだから!」

 はたして我慢比べが真剣勝負といっていいのかは疑問の残るところとして、あれは第三者が正面から立ち入っていい場面ではない。

「じゃ、あたし帰るからねー!」

 そう言って帰った壁にはレヴィンが立っていた。

「……何よ」

「もう一度行ってこい。セリスが動かない」





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