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FIRE EMBLEM 暗黒竜と光の剣(19) 「Noice messenger [6]」
(2010年12月)



Novels FIRE EMBLEM DARK DRAGON AND FALCION SWORD
19
SIDE STORY
605.11〜12
[MACEDONIA+]



(6-0-a)


 大丈夫だろう、と言い放ってマチスは野天の治療所を離れたが、十数歩ほど来ただけだというのに、全身が重さというかだるさを訴えてきている。

 早すぎないかとは思ったものの、城壁の上り口に至るらしいこの通路には人がいない。要は戦勝に沸く城内の喧騒から少しでも逃れたかったので、この辺りでも全く構わなかった。

 適当に座って壁に背中を預けると、今の自分の風体はかなり酷いものだと改めてわかった。

 上に誰かが外套を羽織らせてくれていたが、それを除ければ服だの靴だのは全体的に焼け焦げ、特に服はあちらこちらで焼け落ちている。その下では膏薬の上に包帯を巻いているところが五ヶ所以上はあったから、二度受けたらしい隔癒リブローでは足りなかったのだろう。顔にも膏薬を塗られていて、頭もまた包帯を巻かれている。頭髪も例外なしに炎の洗礼を浴びて、先端がチリチリになっている。

 顔見知りがこの姿を見たら、さすがに妹のレナは心配してくれる気がするものの、他の面子には笑われる予感しかしない。

 上級攻撃魔道のボルガノンを四度受けて、完癒リカバーの世話にならなかったにしては驚異的な軽傷で済んでいるのだが、さすがにそんなことを力説したくはない。

 勝負で負けて、戦に勝った。父親との対決はこれに集約される。

 元より勝てるとは考えていなかった。だから、マチスが父親に杖で一撃を加え、その返しで会心の出来になったボルガノンをまともに受けて意識を失い、その直後に先行していた連中が天守を押さえて戦が終わったのは「上出来」だったのだ。

 正直なところ、父親を殺したかったわけではないし、レナもそれを望んでいなかっただろう。リンダに会って気まずい思いをしなくて済む。

 ただ、もしかしたらまともな「対面」はあれで最後かもしれない。父親は城側の中心にいたのは間違いないから、極刑を言い立てる声があってもおかしくはなかった。

 あの形で、自分が父親に何か示せたのか。

 今まで対話が足りなすぎた親子は、あの対決ですら貴重な「対話」と言えてしまう。

 そういえば、「絵」について何も言わなかったと思い出した。

 今の立場、ここに自分がいるのは王侯貴族の優位を使う選択をしたからに他ならない。

 マリアがくれた魔除けがなければ、父親との対決で生き残っていなかった可能性が高いし、運良く命があったとしても起き上がれないはずだった。

 ミネルバに従う決断をすることになったディールにいた頃の自分だったら、これらに対しては否定的な気持ちが先に来たはずだった。

 けれど、今はそれを強く言い切れない。

 王族の存在で人々はこんなにも団結し、強さを持てることを思い知った。大きな脅威に対しても立ち向かう勇気を得られる存在は、とてつもなく大きい。とてもではないが、一言で要らないと言うことはできなくなった。

 とはいえ、完全に肯定できないのはこうして逃げてきていることが証明している。ミネルバが嫌いなのではないし、この戦の勝利は良いことではあるのだが、どうしてもそこに混ざりきることができないのだ。

 そういった理由からも、今は「絵」を示せない。あの場で思い出さなかったのは却って良かったのだろう。

 通路から見上げる秋の空は高く、のどかな雰囲気を醸し出している。少し路地を曲がっただけだというのにあの喧騒はほとんど聞こえないし、休むにはいい按配の場所だった。

「まぁ、色々ありすぎたしなぁ……」

 これから考えることは実は山積みだったのだが、今だけは休んでいいだろう。

 ――それくらいの軽い気持ちでマチスは目を閉じた。





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