「Noise messenger[3]」3-4:4 |
* オーダインの後退から二時半が過ぎて太陽が傾き始めた頃、守備兵の投降と砦を明け渡す旨の連絡が敵方から届き、実際に武装を解いた兵士達が砦から出始めていた。 オーダインの言葉に反した結果に、寄手の解放軍は驚かされながらも降ってきた兵士への対応に追われることになった。 そんな中、マチス隊は敵方から来る騎馬騎士団の選別のために待機していたが、こちらも驚きと動揺のさなかにあった。 「なんだって、あっちはこんなに脆いんだ……?」 「おそらく、敵兵、あるいは伝令にこちらの手の者が潜り込んだのではないでしょうか」 解説するボルポートに、マチスを含めた騎馬騎士達は一様の視線を向ける。 「それ、自分だったらそうするって意味だよな」 否定はしません、と細い髭を引っ張ってみせる。 「ですが、先程は交戦しておりませんし、その前の戦いからですから、内部で攪乱したのは余程胆力のある者でしょう。傭兵隊、あるいは数の多いオレルアン勢の中にそうした人間を予め混ぜておいたと考えられます」 誰がそれを考え、入れ込んだかという想像はあまりしたくない――が、そうした手に救われているのも確かだった。 オーダイン達騎馬騎士団の動向を気にしつつ、砦の方面をマチス達は見守っていたが、求める姿は一向に現れない。 正体の見えない嫌な予感が一同に漂う中、これで最後という一団が解放軍の陣へ到着したのである。 敵陣に残ったのは、若干の王国軍歩兵と騎馬騎士団の大半、当然オーダインもその中に入っている。 こうなってしまうと、解放軍は方針を変えて、敵方の残り兵力の少なさを省みて制圧に向かうのが得策になってしまう。 「こんな混乱が起こったのだから、今度こそ将軍には降ってもらえると思ったが……どうも上手くいかぬものですな」 おれはさ、とマチスが切り出す。 「あんた達ほど将軍の事知らないけど、ほとんど実力で聖騎士まで行ったっていうんで、尊敬してるんだよ。だから、この前は何ができるわけでもないけど、でもどうにかしたくて城に乗り込んで行けた。一時的にでも成功したのはたまたまだったけどな。 けど、それも余計な事だったんかな……」 処置の落ち着きが徐々に訪れ、夕食の準備が始まろうとしたところへ、マチスの元に伝令がやって来た。軍議のため、ミネルバが諸将へ召集を求めているということだった。 顔を出してもさほど影響はないだろうと思ったが、今後の方針が決まるのだとわかっているだけに、避けるわけにもいかなかった。 重い気分でミネルバの天幕へ向かったのである。 |