トップ>同人活動記録>FE暗黒竜小説INDEX>12 Preparedness 1-1
「Preparedness」 1-1 |
(1) グルニアとの戦いが終結して、また例によって残党との戦いが始まると思っていたマチスだったが、今回は王都へ行って本隊に合流する指示が下った。 グルニアが終われば、次はほぼ間違いなくマケドニアである。ロジャー達がアリティアで忙殺されたように、今度はマケドニアの人間がそうした事に狩り出されるのが容易に想像できて、これまたあまり気分のいいものではなかった。 別働隊が自力で陥とせなかった砦を越え、山に抱かれた森を過ぎた先に広がるグルニアの王都に着くと、まずは本部への報告のために城へ足を向けた。 戦が終わって五日ばかり経過してから王都に入ったせいか、城下ではやや緊張の気配が漂っている。しかし、解放軍の兵士が何気ない顔つきで行き来する中でも、人々はぎこちなくはありながら日々の生活をそれなりに送っているように見えた。おそらくは、そうした方針を解放軍が打ち出した結果なのだろう。 グルニア城に入ったら、こちらはこちらで兵士達が露骨にものものしく歩き回っている。そこでよく知っている顔にも出くわして、本隊の戦いの様子や、諸事情を聞くことができた。 本隊のグルニア戦は黒騎士団が相手ということもあって、主力部隊の中心に騎馬を据えて機動力同士でぶつかった機会が多かった。今回はさすがに被害が大きくなり、今までのような快勝はあまりなかったという。最後の方でグルニアの将軍が王を見限ったことでようやく突破口が開けたものの、そうした力が必要になるほどグルニアの守りは固かったらしい。 そして、黒騎士団の精鋭と数を合わせて臨んだカミユとの決戦では、今まで切り込み隊を務めればそのまま敵勢を落としてしまっていたアリティア騎士が囮になり、最終的にはハーディンとカミユの一騎討ちになった。ハーディンは左腕に大怪我を負いながらもカミユを打ち倒し、グルニアとの戦いはここで終わったようなものだった。ちなみに、最大の殊勲を得たハーディンの怪我は相当に大きく、数日が過ぎた今も法力の杖による治療にかなりの時間を割いているという。 王都を制圧した解放軍は当然次の戦いを睨んではいるが、その他にもアベルの聖騎士叙勲と、アカネイアの宝槍グラディウスの扱いについても関心は高く、色々と言い交わされている。 アベルの聖騎士叙勲については、ハーディンの時と違ってアリティアが自国の騎士に与えるものだからこれはごく自然な流れとしても、その後に行われる槍の試合がかなりの注目を集めている。というのも、アベルの好敵手に位置するカインが出てくるのは間違いないとして、先の最終戦に参加したロシェも頭角を現していることで今回こそ出場する見込みが強い。前回の時はハーディンが余裕を持って全ての試合で勝ってしまったが、今回は面白い試合になりそうだと期待されているのだった。 そして、カミユが持っていたグラディウスは一度ニーナに返され、メリクルレイピアがマルスに委ねられたこともあって、ハーディンに一時預けられようとしていたのだが、オレルアン王弟はこれを断ってしまった。曰く、せっかくだがこの槍は強力に過ぎ、己の腕を信じる自分とは相容れない。カミユの滅びも最強を自負する実力に彼(か)の槍が加わったことが要因のひとつだから、そうした槍を受けることはできない、ということだった。そう言われてしまうと、他の騎士も固辞せざるを得なくなり、アカネイアの宝は行き場なくニーナの元で保管されているのだという。 騎士の話題でありながら、いずれも見事にマチスに関わり合いにならないのだが、聞く分には興味深いものだった。それだけ解放軍の中では気楽に過ごしている部類に入っているのだが、元より気にしていない。 そんな話を仕入れながら本営を訪れ、報告の後で今後の事を簡単に聞かされて用事を済ませると、マチスはミネルバの居館に足を向けた。逃げたいのはやまやまだが、そうするとうるさいことになりかねないし、マケドニアを前にしている今、ミネルバの方針を確認しておく必要があった。 教えられた館を探して城内の敷地をうろついていると、これまた知った顔と出くわした。 ただし、褪せた赤毛と軽快な足取りが形作るこの男は、マチスにとってあまり会いたい顔ではない。 そんな心中を知ってか知らずか、相手は気軽に声をかけてきた。 「よう、捜したよ。今回も生きてたんだな」 「その言葉、お前にそのまま返してやるよ」 即座に言い返したマチスに、男は不思議そうな顔をする。 「どうして?」 「敵情探りに行ったりして、よく生き延びてるもんだ」 「はは、俺にはこれ以上ない敬虔な人の祈りがついてるからな」 いけしゃあしゃあと言ってのけるのは、義賊を自称する元盗賊のジュリアン。妹のレナに感銘を受けて悪事から手を引いたと言うが、詰まるところは惚れているのである。それに、解放軍の都合によって、盗賊のような仕事を請け負うこともある。本当に足を洗えるかどうか怪しいところであり、ついでに言えば洒落者の雰囲気を持っているところが非常に 「レナの祈りに守られているってことは、いつまでたっても進展がないんじゃないか?」 「それはそれだよ。レナさんあっての俺だから、あとはレナさんの気持ち次第。何十年でも待ち続けるね」 「……何とでも言ってやがれ」 低く呟くそれは、しかしながらジュリアンには届きそうにない。 仕方なく、話題を変えた。 「それで、おれに何の用なんだ」 「ああ、レナさんからの伝言だよ。お祖父さんが 「…………ここに?」 何かの間違いであって欲しいという気持ちを込めつつも、おそらくこれは事実なのだろうとマチスは予感していた。悪い予感はよく当たるのである。 そこへたたみかけるように、ジュリアンが言い添える。 「俺はレナさんのついでのつきそいで見ただけだけど、前にあんたが言ってた杖で競り勝つってのはあの人の事なんだろ? ……まあ、普通の爺さんではなさそうだったけど」 「普通の爺さんだったら、あんな事言わねぇよ。おれは実際にそういうところを見たわけじゃないけど、そういう人だ」 マチスの父親が完璧すぎて近寄れない人間なら、祖父は規格外だった。七、八才で初対面を迎えたのだが、なまじ僧侶というものに普通の印象を持っていたために、衝撃の受け方も並々ならぬものだった。 その代わり、あまり先入観のなかったレナは祖父にあっという間になつき、大層気に入られている。弟子になって、一五歳になる前に一人前と認められたほどだ。祖父に預けられたのは父親の方針だが、レナ自身が望んでいたのも大きく影響している。 「って、レナはもうじーさんに会ったのか?」 「ああ、代々伝わる杖ってのをもらってたよ。レナさんは遠慮してたけど、使わないと伝承も枯れるとか何とかって爺さんが言ってた」 「……一部始終、ずっと聞いてたのかよ」 「ずっとってわけじゃないよ。なんだか悪い気がしたから途中で外したし。 「おれが会っても意味はなさそうだがなぁ……」 というより、会いたくないというのが明らかに先立っている。 それにしてもレナとは仲違いをしている最中なのに、伝言を立ててまで報せてくれるのは律儀というか、レナらしい気遣いではある。 伝言だからとジュリアンが教えてくれた祖父の居所は、解放軍が利用している建物のひとつだった。 祖父が王都に滞在している間に覚えていれば会っておくかとその程度に考え、ジュリアンと別れると、まずは当初の予定通りにミネルバを訪ねた。 |