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「Reinforcement」 1-4







 風のうわさとは恐ろしいもので、マチスが宿舎に帰ると入口で見張りに立っていた兵士が息を飲むようにして結果を訊いてきた。城で誘われたその足で行ったというのに、こんな所にまでもう話がいっていたらしい。ただ、勝ったことまではさすがに知らなかったらしく、結果を告げると兵士はひどく驚いた。

 今日の儲けを部隊の会計役に渡すと、彼も非常に不思議そうな顔でマチスを見上げてきた。

「本当にこれを、長殿が……?」

「天変地異の前触れって感じだろ。銀貨五百だけど」

 最後の負けは稼ぎすぎがアダになった感もあるが、最後にはプラスで終わったのがまず快挙だった。しばらくの間は話の種にもなりそうだ。

 会計役が有難そうに帳簿へ書き込むのを見届けると、マチスは踵を返して町の酒場へと足を運んだ。最初の酒場で都合よく自分の部下が見つかり、同じテーブルに座らせてもらう。

 彼らがテーブルの上に並べていたのと同じものを注文して、早々に皿のものをつまんだ。

「慣れない事なんかするもんじゃないな。疲れるし、腹が減って仕方ない」

「ん? 大負けしたんじゃないんですか」

 やっぱりこっちにも事情は伝わっていたらしい。

 敢えて結果は言わずに周りを見た。

「それなんだけどさ。カードかサイコロ持ってる奴、いる?」

 部下のひとりがサイコロならあると取り出そうとしたが、隣のテーブルから「カード、持ってるよ」と声が飛んできた。

 その主を見てみればシーザの部下である。ノルダで何度か目にした顔だった。

「話が聞こえてたんでね。で、賭けはどうだったんですかい」

「それが信じられないから、ちょっと確かめたいんだよ」

 マチスはカードを借り受けて、部下を数人呼んで空いているテーブルについた。

 ひとりの部下を指名してディーラー役になってもらい、午後にやったのと同じゲームをする。だが、カード交換後の一回だけ賭け金を載せる、文字通りの一発勝負である。貨幣も銅貨になってグレードは更に落ちる。

 五ゲームもしたところで部下が不安そうに言ってきた。

「まさか、俺らから負けを取り返そうとしてないですよね……?」

 この科白とは裏腹に、多少の偏りはあるが、部下にはだいたい勝ちがいっているのに、彼らの上官は負けてばかりいる。

 マチスは唸るような様子で配られるカードを睨んでいた。

「普通に十ゲーム終わればそれでいいから、何も言わずに付き合ってくれよ」

 昼間と同じことをしているものだから、妙な既視感にとらわれる。だが、攻め込んでいっても決して勝ちには至らない。それが決定的に違うところだった。

 そして、十ゲーム目が終わった。

「何というか、その……」

 勝ち分を目の前に積んで、部下達は一様に申し訳なさそうな顔をしていた。思わぬところで結構な額の小遣いが稼げてしまったのである。

 マチスは笑って手を軽く振ってみせた。

「別にいいよ、今日は銀貨五百稼いだし」

 驚きの声が上がったのは言うまでもない。あちこちでどよめき、どこかから口笛まで聞こえる始末だった。

 騒ぎの中、兵士のひとりが訊いてくる。

「で、その儲けはどうするんですか」

 もしかしたら今夜は長のおごりもありうると、他の兵士も目を向けてきた。

 一同の期待をよそに、もう会計に渡してきたとマチスが話すと、もれなく失望の声が返ってきた。

 そう言われても、元本となった銀貨二千は会計役が部隊の苦しい財布事情からひねり出して、こういう機会の時のためにと用意してくれた金である。次以降のためにも勝った時くらいは部隊へ還元しておくべきだった。

「だいたい、あんなとこで遊んだって疲れるだけなんだよ」

「けど、勝ったじゃないですか。……今は負けてましたけど」

「だろ? 普通にやればああなるんだよ」

 必ず負けで終わる賭博の腕もどうかしているわけだが、たまには役に立つ。あのグループでは、ほぼ確実にイカサマが行われていたと考えて間違いない。問題は、誰を標的にしていたかだ。

 マチスが今回勝ちで終わったのは次でカモにする算段なのかもしれないし、別の布石が働いてそういう形になっただけなのかもしれなかった。

 今日一番勝ったのは誰だっただろうと試しに思い出そうとしたが、さっぱり出てこない。自分が勝って浮かれていたしなぁとため息をついたところで後の祭りである。

 正義感とかそういうものではないけど、カモにされるのは避けたい。忙しいだろうが、ロジャーに連絡を取って今日の確認をしておいた方が良さそうだった。

 賭けといえば、とシーザの部下がマチスに声をかけてきた。

「闘技場には行ったりしますか?」

「いや、行かないよ。死神になるからやめろって前に言われた」

 シーザの部下は、偏って置かれた銅貨を見て『確かにそりゃそうだ』と言わんばかりに深く頷いた。

「まあ、行かないのならいいんですが、ラディさんが闘技場に挑戦しようとしてたら止めておいていただけると有難いんですよ。結婚資金を貯めるって言ってるけど、死んだら元も子もないから」

 妙に耳慣れない言葉が響いた。

「結婚?」

「カダインで見初めちまって、帝国を倒したら傭兵をやめて一緒になるんだって言ってましたよ。まー、あれから隊長が荒れるというか、老け込んだというか。ラディさんはいずれ『勇者』も狙えるんじゃないかって言われてたから、よっぽど気落ちしたんでしょうね」

 名声を得た傭兵は『勇者』を名乗ることが許される。その道で有名なのはアカネイアの傭兵隊長アストリアで、上流階級の仲間入りを果たすほどだ。

 解放軍での有力な傭兵はオグマとナバールが挙げられるが、ふたりともその実力はあるくせに『勇者』の称号を拒み続けている。オグマは剣闘士を生業にしていた時期があるからと言い、ナバールは柄じゃないとその一点張りだった。

 そうした昇格人事で揉めているのは騎士の側も相当なものだった。二年前に多くの聖騎士を失ったアリティアは一早く体制を立て直したいと考えており、これを機に自国騎士のカインとアベルを同時に聖騎士へと昇らせようとした。だが、聖騎士というのは国を代表する一面もあるため、単に叙勲式を済ませればいいというものでもない。冬にオレルアン王弟ハーディンが聖騎士の称号を得た時のように、様々な催しを開く必要がある。

 ところが、国土を取り戻したばかりのアリティアにはそれだけの余裕がない。ひとりだけならどうにかできそうだが、ふたりは無理だと言い切った。そうなると、実力が限りなく近い上に、今回の奪回戦でよく働きはしたが目に見える差がつかなかっただけに、アリティア側も決めかねたようだった。そのせいで、次の戦場はふたりの聖騎士位を争う戦いになりそうだと言った人間もいるほどだ。

 かと思えば、アリティア城奪回で回廊に詰めかけた大勢の敵軍を見事に退けた重騎士ドーガは、打診されていた昇格の話を断ったという。理由は傭兵達とは違って、前線に出ていたいからだった。

 こうやって方々ほうぼうの話を聞く分には賑やかなのだが、マチス自身はというと最初から聖騎士になるつもりがないだけにずいぶんと静かなものだった。同じマケドニア人の昇進でも、パオラどころかカチュアまでもが竜騎士に昇るのが先だと確信している。

 この賭けなら絶対に勝つ自信があるんだがなぁとマチスは肩をすくめた。





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