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「A GRAY SWORD」 2-1





(2)


 結局、報奨金の件は後日に陳情を聞くという約束を取り付けるにとどまり(つまりは先延ばしになって)、マチス達は首都の守りにつく日々を過ごすことになった。

 グラはアカネイア同盟解放軍が初めて攻め込んだ「国」だった。今までは国を取り戻すための戦いだったのに対し、今度は攻めてきた国に向かって反撃に出たため、城は元より城下に住む者から奪ったものも少なくない。その上、様々な規制をかけているから、町の中を歩いてみれば暗く沈むグラの人々の表情がいやでも見えてしまう。

 マチス達が戦った郊外では感謝されることが多かったが、そちらの方がおかしい状況だっただけの話で、占領した国においてはこの光景が普通なのだ――そのために、彼らは他の部隊の人間よりも落差をより実感してしまったのだが。

 そして、マケドニア人兵士の中には、グラの処遇を未来の自分達に重ねた者もいたようだった。

「ミネルバ王女がこっち側にいるから、グラここほどひどくはならねぇだろうが、いい影響じゃあないな。マケドニアに家族が残っている奴は沢山いる」

 酒場の隅で酒をちびちびとりながら、マチス隊の古参のひとり、シューグが肩をすくめる。

 同じ卓につく重歩兵部隊長がわずかに目を見張った。

「お前がそんな感傷を持つのか」

「俺じゃなくて、下の連中だ。あんたの隊にもいると思うがね」

 シューグの切り返しに、重歩兵部隊長は口の端を曲げて笑ってみせた。

「重騎士を甘く見ないでもらいたいな。今やミネルバ様の臣下として仕えておるというのに、そんな泣き言をこぼす者など居るはずがない」

「じゃあ、俺らの頭が伯爵の息子のままだったら、今頃文句をぶちまけてたわけだ」

 シューグがにやりと笑って言うのに、部隊長はさっきの笑みから一変して苦々しいとばかりに顔をしかめた。

 伯爵の息子とはマチスのことである。

「結果としてミネルバ様を戴くようになったが、そうでなければどこかで行き詰まっていただろう。悪いが、あの人に最終的な反ドルーアのマケドニアをまとめる力があるとは思えん」

「誰も思ってないだろうよ。俺だってそうだ」

 困ったことに、当のマチスがその思いを一番強く持っている気がするシューグだったが、それは言わないでおいた。

 一方で、解放軍のごく一部で実力よりも高い評価を下す人間がいることはいるが、多勢の評価をひっくり返すには至っていない。

「ま、ちゃんと戴くお人がいて良かったじゃねえか」

「まったくだ。だから、お前の部下にもきちんと言い含めて、馬鹿な事を言い出さないようにしておけ」

「冗談じゃない、そういうのはうちの騎馬騎士隊長に言ってくれ。俺は話の種に出しただけなんだからよ」

「無責任な。だから、副長止まりになるのだぞ」

「副長で結構だね。充分すぎるくらいだ」

 シューグの役職はオレルアンでアリティア軍に寝返る際に与えられたもので、マケドニア軍時代は一騎士でしかなかった。この扱いの根拠はシューグ本人にもわからない。人選については副官のボルポートが全面的に考えた可能性が高いが、はっきりとそう聞いたことはなかった。三十名程度の隊で、他にも副長はいたから、割と好き勝手やっていたと自覚しているのだが。

 不意に、ふたりの卓に影が落ちた。

「そこ、座らせてもらっていいか?」

 空いている椅子を指した男の顔に見覚えはなかったが、見た目はアカネイア人のような雰囲気があった。

 アカネイア兵の集う店ではなく、肩身の狭い連中が来る店をわざわざ選んで入っている時点で何か企んでいるのかと考えてしまう。

 少し考えて、シューグはカマをかけることにした。

「俺らに何か用か」

「話があるんだが、聞いてもらえるか?」

 あまりにも率直すぎる答えに、シューグと重騎士部隊長は思わず視線を交わした。お互いに、面倒な手合いに遭ったと言いたげな顔をしていた。

「あの変人に用があるならこんな所で俺らを引っ掛けてないで、直接行けばいいだろうが」

「変人?」

「画家の名前がついた俺らの上役だ。この軍で聖騎士を目指してない騎士の将なんてあいつしか思いつかねえ」

 口の悪さをいかんなく発揮するシューグだったが、決して悪口を言っているつもりはない。これはまぎれもない事実である。

 聖騎士の事を持ち出したが、マチスが冬の試合に出なかったのを非難するわけではない。あれはあれで当然の判断だった。

 しかしシューグの予想とは逆に、男は確信を得たような顔をした。

「それならもっと都合がいい。明日にでも打診させてもらおう」

「……何の話だ?」

「いや、貴殿の言う通り直接マチス殿に話すよ。邪魔をして悪かっ……」

「話せ」

 真顔で返すシューグの手に杯はない。話の途中で手放していた。

「じかに会えと言ったのは貴殿ではないか」

「そういう言い方されたら気になるに決まってるだろ。俺らを知ってて声をかけてきたなら、元から心積もりがあったってことだしな」

「確かにそれはそうだが……これはまだ内密の事だ。あまり広めないでほしい」

「そんな事を何の前置きもなく、我々のような者に話すつもりだったのか?」

 これは重歩兵部隊長だった。

「こちらにも色々とあってな。出し抜かれないためには体当たりもやむを得ない。貴殿らを信頼していいのなら、元よりそのつもりでいる」

 いちいち飛躍する奴だと思いながらも、シューグは特に止めはしなかった。部隊長も話したければ話せという態度を取ったため、男は椅子を引き寄せて腰掛けた。

「グラの兵をまず二千ほど解放軍に組み入れるんだが、その監督をいくつかの部隊に打診しようと考えている」

「そういうのは、アカネイアで面倒見るんじゃないのか?」

「……色々とな、難しいんだ。それが簡単にできれば苦労はない」

 盟主アカネイアが内部争いで解放軍末席のマケドニア勢に頼るというのは、滑稽な図ではあるがあまり笑ってもいられなかった。

「本当に、そんな事をこっちに打診するのかよ」

「打てる手は全て打たないとな。馬鹿馬鹿しいだろうが、そういう状況なのさ」

「出世競争のダシには向いてないと思うがね」

「それでも構わない。先を越されなければそれで事足りる」

 そこで男が話を切り上げ、店を出ていくのを見届けると、シューグと重歩兵部隊長はどちらからともなく腰を上げた。

「変なのに目をつけられたもんだ」

「我々に来る役目とは思えないがな。グラそのものがアカネイアの管轄に置かれるようになったのだから、お前の言う通り、アカネイアの人間が監督すれば問題はない」

「それが国として実行できない連中を俺らは盟主にしているわけだ」

 嫌な話を聞いたもんだと、シューグは大袈裟に身震いをする。

 それでも報告だけはしないといけないだろうと意見を一致させて、彼らもそっと店を出たのだった。





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