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「THE CALENDAR」 2-3






 手のひらを返すとは正にこのことだなと、ガルダの元海賊ダロスは降って湧いた歓迎ムードの喧噪に顔をしかめながら、ワーレンの町並みを歩いていた。

 ガルダからアリティア軍に同行し、オレルアン奪還時まで最前線で戦っていたものの、その直後に別行動の命令を受けて急いでガルダに戻り、海路でワーレンに入ったのが四日前の七月八日だった。折しもその時は、同盟軍によってレフカンディが突破されるかどうかという瀬戸際で、どちらの立場をも取りづらいワーレンの町に不穏な空気が漂う中、ダロス達は予定されていた潜伏行動をこなさなければならなかった。

 その内容は、ペラティ周辺、及びに外海のドルーア勢力を調べ出し、実際に幾人かのペラティの海賊と顔つなぎをする一方で、事前に知らされていた同盟軍寄りの豪商に使者として出向き、船などの確保に明け暮れ、ワーレンが同盟軍を招き入れれば外海で待つダロスの手下てかの船に合図し、同盟軍の旗をつけさせて次々と入港させていく――と言う具合のものである。

 たった三日間しか時間がなかったが、そんな中ででき得る事の全てをして、今朝方、同盟軍が町に接近しているのを知ったワーレンが反ドルーアの狼煙を上げ、駐留していたグルニア兵の追放を見届けて現在に至っている。

「……せめて、手前が関わってりゃ違ったんだろうけどな」

 昨日まで町の暗い雰囲気を見ていただけに、この前向きすぎる賑わいは不釣り合いに見えてしまう。入港する時に同盟軍との関わりを必死に隠していたものだから、余計にそう思っていた。情報収集と接触工作にあと一日は欲しかったとこぼす自分がいるが、この役目にやりがいを感じている事を否定するつもりはない。これ以上不毛な不満を抱えるのはやめておいた。

 ガルダを根城に海賊稼業をしていた頃のダロスは荒事専門で、こんな『小細工』には縁がなかった。オレルアンでこの工作命令を下された時、こんな事ができるはずがないと思っていたし、実際そう訴えもした。だが、新しくワーレンに根城を作るつもりでやってみろと手下やガルダに残った連中を口説けば、彼らの方から動いてくれるから心配するなとタリス衆に言われてしまい(これでも不安極まりなかったのだが)、ほぼそのままの言葉でガルダの衆に声をかけたら、言ったダロスの方がひきずられるような勢いで、任務を遂行しきってしまったのである。

 将来のアカネイアは、ガルダの衆をわざわざ海賊に戻した責任を取ってくれるんだろうかなどと思いつつ、ダロスは同盟軍の首脳が集まっているはずの屋敷を探していた。これまでの経過を報告するためである。

 だが、同盟軍の旗を掲げている豪華な屋敷を探し当てればいいだろうと高をくくってかれこれ一時、一向にそれらしい建物は姿を見せない。

 これは目標を変えて、兵の宿舎になっている建物を探して顔見知りを捕まえた方が早いだろうかと踵を返した時、角の方へ何かがすっと消えたような気がして、ダロスは眉をひそめた。

 豪商の屋敷街に船乗りの風体がそんなに怪しかっただろうかと角を覗こうとすると、ちょうどこっちを覗き込んで来る男の目とダロスの視線がぶつかった。

 ぼさぼさの赤毛を伸ばしている若造だが、長剣を下げている。これ以上怪しいものが他にどうあるのかと言えばいいほど、怪しい奴である――尾行と呼ぶには稚拙な身の運びではあったが。

 幸いにもこの若造の体つきはひょろっちく、腕っぷしなら勝てそうな相手だった。とっ捕まえて吐かせるかと一瞬だけ思ったが、これがもし同盟軍の人間だったら少し厄介な事になるか――。

 などと考えているうちに、かの若者はダロスに背を向けて走り出していた。

「待ちやがれ!」

 条件反射に近い速さで反応し、ダロスは男を追い始めた。





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