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「HARD HEART」(後編)3-2






 マケドニア負傷兵の天幕に行くとドーガが待っていた。

 今回の戦いの間、ドーガは自分の重騎士隊とマチスの側についた元マケドニア兵で本陣を守り、もし前線が撤退してきた時には橋を塞ぐためにここにいるとのことだったが、どうやら作戦の説明役に回されたらしかった。

 よほど気がひけたのか作戦の内容を話す前に、重い息を吐きつつマチスにこう前置きしてきたのである。

「うちの大将は策を練るのが好きだと言ったが、できるだけ安全に勝ちに行こうとする策じゃなくて、敵味方を問わずいかに人を驚かすかに重点を置いている。そいつを承知の上で聞いてくれ」

 ちなみに前の戦いでマルスがマケドニアの斥候に化けて撹乱するというのもマルスの案であって、しかもタリス義勇兵を抱き込んで彼らだけに話し、戦闘に突入したのだという。

 その成果はマケドニアの五百(正確には騎乗騎士の三百)の戦力の撹乱という形で出てきたが、後発を取らされたアリティア騎士もたまったものではなかったはずだ。

「……そんな策を出されても、あんた達はあの王子についてくわけ?」

「仕方ねぇよ。戦に負けたんならともかく、数で不利な中で勝ち続けてるんだから文句は言えねぇ。そういうわけだから、とりあえず最後まで黙って聞いててくれよ」

 ドーガの言い方は半ば懇願しているようにも聞こえた。

 考案したであろうマルスの口から聞かされなかった作戦とは、さすがに本人から言わなかっただけあってかなり無茶なものだった。

 偵察で相手方の先陣がわかったらそれに応じて出て行く人間を変えていくのだが、これがやけに大雑把だった。

 ベンソンの隊が出てきたらマリクを後ろに乗せた騎士が一騎だけ出て、他の騎士だったらアリティア騎士をぶつける。そしてホースメン部隊が出てきた時には元マケドニア軍の誰かを出して斥候と接触させるというのだ。

「それをやったら、かえって捕まるんじゃねぇの?」

 口を出したマチスに、ドーガが肩をすくめた。

「黙って最後まで聞けって言っただろ」

 斥候と接触させるといっても、前の戦いで負けがわかってかなり時間が経った後で戻ってくるのだから、怪しまれないはずがない。この場合、斥候はホースメンの隊から出しているのを前提として、その斥候をどうにかして言いくるめてホースメン部隊だけを突出させようというのだ。なお、先陣が混成だったり斥候がベンソン直属の兵だった場合、これらの作戦は成立しない。

 そして、ホースメンとベンソン以外の部隊が先陣だった時はホースメンの部隊を説得するのは諦めるしかないだろう、とドーガは締めくくった。

 マチスは思いっきりしかめっ面をしてドーガを見上げた。

「…………色々と訊きたいことがあるんだけど」

「だろうな」

「元マケドニア軍の誰かに行かせるって言ったけど、その誰かってのはこれから決めるのか?」

「いや、悪いとは思ったがもう決まってるんだ。でも、お前さんじゃない。捕まってもらったら困るからな」

「じゃあ、誰が?」

「ボルポートっていったかな。あの中じゃ割と年かさのやつなんだが。
 お前さんを起こしてから決めようと思ったんだけど、どうしてもそいつがやるって言ったからそのまま決まっちまった。最初に味方すると決めたのだからこれくらいの仕事はせねば、とか堅いこと言ってたな」

 そう言っていると、そのボルポートが現れた。

「もう起きるような頃合いになったか。
 ――いや、いずれ貴族に戻るのなら、言葉を改めねばならぬな」

 マチスは嫌な予感がして、ボルポートを止めに入った。

「ちょっと待てよ」

「具合が思わしくないと聞いて心配しておりましたが、大過なくお目覚めになられて……」

「だから待てって! 理由もないのに勝手に人を敬うな!」

 普通の人が聞けばまず首を傾げる科白である。

 ボルポートがそれを感じたのかどうかは定かではないが、静かに言葉を返してきた。

「理由がないなどということはありませぬ。わたしは貴方を主君と仰ぐことに決めたのですから、言葉を改めるのはあやまつことではないと思います」

「だからって、さっき『起きたか』って言ったのを急に心配するだの何だのって言ったら、繕って言ったようにしか聞こえないだろ!
 それに、どうしておれがあんたの主君になるんだよ」

「そうでなければわたしは寄る辺なき身となります。ひとりの人としてだけでは、ミシェイル王とは戦えませぬ」

「でも、おれは持ち上げられたくないんだ」

「妹君にもそう仰せでしたがわたしでは身代が違いすぎます。どうか曲げてください」

 平行線のまま続きそうな会話に、ドーガがマチスへの助け舟を出した。

「ボルポートさんよ、言葉にこだわってるとそいつ自身の価値を見失うんじゃねぇか? おれはさっき会ったばかりだからよく知らねぇけど、貴族らしくないってのがマチスの長所だってカインから聞いて、それは納得したんだよ。あんたにはあんたの考えがあるだろうけど、そうされて困ってるんだったら、やめといてやるのも思いやりだと思うがな」

「……確かに、その考えも一理あるな。言葉の体裁を整えればいいというものでもないか」

「使い分けていれば賢いけど、距離は遠くなるだけだからな。で――こんなとこでいいか?」

 くると振り向いたドーガに、マチスは何度も頷いた。

「それが言いたかったんだ。ありがとな」

 自分で言ってもよかったが、他にもわかってくれる人がいるのが嬉しかったのだ。

「ま、経験上ってやつだな。距離を置かれると顎指しで命令するのは楽だけど、やってる側はだんだんひとりになっちまうから、そうなると辛くなってくる」

「そうだよな……」

 そうしてしみじみと感じ入っていたが、今はそれどころではなかったと思い出した。

 ボルポートの方を向く。

「そういえば、ホースメンの部隊の方に行くって聞いたけど、どうしてあんたが自分から言い出したんだ?」

「彼らを説き伏せる勝算があるから……だ」

 です、と言いかけたのだろう。

「勝算?」

 マチスが自分で考えた時には、彼らを説得する要素が全く思い浮かばなかった。

 何故受け入れられて、飲み食いの席を共にするようになったのかは今でもわからない。

 ただ、貴族や王族は徴税したもので無駄なことばかりしていて、おまけに戦争なんかに乗り気なんだから救われないもんだ、と以前から言っていたことをそのまま主張し続けていたのは覚えている。その事で騎馬騎士団に入った時には誰からも散々に言われ、それがうるさいと思って黙っていた時期はあったものの、絶対に考えは変えなかった。

 入団から十カ月たち、オレルアンに駐留するようになってホースメンのひとりが、まだあんたはそう思っているのかと訊かれて肯定した時が転機になった気はするが、時期的にそうだっただけの話で理由は別にあるのかもしれない。……つまり、それだけの理由では態度が変わった理由にはならないような気がしたのだ。

 マチスはため息をついた。

「でも、あの人達の説得はおれがやる必要があるわけだろ?」

「いや、貴殿が出なくても、彼らは来るだろう」

 ボルポートはいやに自信たっぷりに言った。

 マチスが気色ばむ。

「どうして、そこまで言えるんだよ」

「主君として仰ぐなと言い、わたしをあくまでも同志と思うのなら、信用してもらいたいものだな。今ここで言ったところで何ら利にならぬ。
 正道に人が集まる時というのはそういうものだ」





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