トップ>同人活動記録>FE暗黒竜小説「買い出し」INDEX>1-3
FIRE EMBREM 暗黒竜と光の剣 「買い出し」 1-3 ‐ * ‐ 戦車兵には二種類あって、固定投石器を代表とする物と、移動速度がかなり遅いものの動かすことはできる文字通り『戦車』に分かれる。 同盟軍に同行するふたりの戦車兵は移動可能な後者の扱いに長けていた。彼らは戦闘中はともかく、進軍中は自らの戦車にもうひとつ車を牽引していく。それは戦車とは違って木製であり、やろうと思えば荷駄隊の荷台と同じように使えるものだった。ただし、荷台よりは頑丈である。元々、戦車の修理用具や戦車部品の代用品を載せているものなのだ。 アリティア完全奪回のあと、戦車は城の裏手に置かれていた。持ち主と護衛のロジャー、あと何故かここにはバヌトゥがいる。 言われるがままここにやってきたマチスは、彼らの姿を認めるや声をかけた。 「よう」 「おお、もう中は大丈夫か?」 応じてきたのはロジャーだった。 マチスは軽く首を振る。 「敵さんはいないみたいだったけどな。でも、ひでぇよ」 「そうか……で、どうしてここに?」 「行けって言われたんだよ」 「誰に?」 「マルス王子もどき」 場が静まった。 妙な間を払うべく、ロジャーが果敢に挑む。 「なんだよ、それ」 「チェイニーがマルス王子に化けて――なんか、王子から頼まれたらしくて、荷台が要るとか何とかって……。で、東の通用門の前で荷駄隊を城下の住人が大勢囲んでたんだけど、応援呼ぼうとしたらチェイニーにこっち行けって言われた」 「でも何だって荷駄隊が……」 「城下にゃ食い物がないんだと。王都はドルーアの政治がひどかったからって」 重々しく肩をすくめるマチスに、三人はそれぞれに納得したようだった。 そこへ、馬……ではなくラバが数頭、荷台を引いていたりいなかったりの姿で現れた。 ただひとり先頭の御者台に座っているのはマルスだった。 ロジャーら三人は目を丸くし、マチスは静かに顔をしかめた。 多分チェイニーなのだろうが、どうも声高に言いづらい。 それを察したのか、マルスが明るく言ってきた。 「おれ、チェイニーだよ。聞いてなかった?」 あ、と三人が気づいた直後、間の悪い顔つきになった。 「そこまで完璧にやられたら誰だって間違えるよな……」 ジェイクが眉間の皴を深くすれば、 「いくら化けてるって言われてもなぁ……」 ベックは複雑そうにチェイニーを見据える。 「悪い悪い、今度からはあんまり使わないようにするよ。けど、今は非常事態だから……」 チェイニーがそれから何かを言いかけたところで、裏門から赤いものが全力疾走してきた。 赤に見えたものは髪の色。やや長め。 赤毛の彼は眼光鋭く一同を見渡すや、チェイニーに目を止め、一気にまくしたててきた。 「何やってんだお前! こんな所でのうのうとやってんじゃねぇ!」 「あ、いや……」 「いやもへったくれもあるか! とっくの昔に出てると思いきやグズグズしやがって――」 セミロングの赤毛の彼はどう見ても変身前のものであった。 いつやってきたのか、バヌトゥがぴんと人差し指を立ててふたりを指す。 「本物じゃな」 誰がどう見ても、そこでやりあっているのは本物のマルスとチェイニーである。 本物チェイニーが相変わらずがなりたてていた。 「変身が解けたのがテラスから下がった時だったから良かったものを、ジェイガンのじいさんとかに追われてて大変なんだからな!」 ここで注目すべきは、現在形であることだった。 こんなさなかに、チェイニーの出てきた所から人影が出てきた。 ジェイガンかと一瞬思われたそのひとはしかし、チェイニーに続いて赤で彩られていた。 レナだ。 長々と杖の施術を行っていたはずなのに、足取りはしっかりしている。 しかし、相当に疲れがきているのは事実。隠しているにすぎない。 レナはマチスを見かけて意外そうな表情になったが、少し笑みを浮かべた。 「兄さんだったのね、丁度良かったわ」 「丁度いいって……まぁいいや。なぁ体大丈夫なのか?」 「平気よ、心配しないで」 その言葉は、マチスにはうわべだけのように聞こえていた。 彼の不安をよそにレナは紙を差し出してくる。 「当面要りそうな物をリストにしたから、できるだけ急いでお願いね」 どうやら、物資買い出し組と勘違いされているようだった。 ……ここに荷台があるのだから、行く人間が集まるのは当然の事か。 そう納得し、おれは違うよと言おうかと思ったが、行く人間に渡せば同じと思い返し、そのまま受け取った。 「でも、お前が来なくても紙だけ渡すように言って他の奴に行かせればいいのに」 兄貴としちゃあ気遣ったつもりだったが、妹は目を見開いた。 「あら、兄さんはジュリアンが来たら受け取ってくれないでしょう?」 ……………………………その名前を出すか。 余程それを言ってやろうと思ったが、一応我慢した。 というか、レナの中では何かしらのお使いを頼む時の第一位にジュリアンを据えているらしい。 「――というのは冗談だけど、皆さん手が放せなかったように見えたから。ジュリアンも、リカードの手当てをしていたから……」 宝物子の近くにいたのはリカードだったのだ。『奥』にいるのだから、怪我は相当にひどいと見るべきだろう。 「あ、ごめんなさい。わたしもう戻らないと」 「……無理すんなよ」 「できるだけ考慮します♪」 レナは精一杯明るく『無理します』と宣言して戻っていった。 「ったく……」 肩をすくめて一同に目を戻すと、さすがにマルスとチェイニーのやりあいは終わっていた。 メモをマルスに差し出す。 「レナから、当面必要なものだそうです」 騙されていたのは何も思わないではないが、下手に言い出して事を大きくしない方がいいだろうと下手に出ることにした。 が、 「受け取ってもいいけれど、すぐに命令書と一緒に返すよ?」 「…………………」 固まりかけた。 頭の中で理解拒否と鳴り響く。 ただ、ぼんやりとわかりかけたのは、話がおかしな方向に行っているという一点のみ。 「どうやら僕が行ったらジェイガンとモロドフがうるさく言うだろうし、他の騎士は城の維持をしなければならない」 その理屈は非常によくわかるが、ど〜してマチスに物資調達の命令が下るのか。 本人としては無駄遣いの気も横領しようという欲もないが、誰もその証明ができない。 もっと言ってしまえば、こういうことは信頼できる人間に託さなければならないのだ。 加えて、この責任はあまりにも重すぎる。 「荷台が確保しきれなかったから、戦車のその後ろの車を代わりにして補いたい」 これにはジェイクもベックも否を言うわけにいかなかった。言う心積もりもないだろう。 マルスは転じてマチスに言ってくる。 「万一でも戦車が奪われるようなことがあってはならない。だから、ここの人には頼めないんだ。それに、一番暇そうだったから」 ……結局そこが理由か。 一応、怪我人の手当てとかもあるのだが、マルスに発見されていた時点で他の事をしていたわけだから反論の余地はない。 マルスは『ここの人』と言ったが、バヌトゥも一応そうなのだが……とはいえ、こういったものには不向きであろうし、チェイニーの場合は軍属とさえ言うのもはばかられる。 他に適した人材がいないかと思案しかけた時、マルスが続けた。 「荷台は五台確保したから、あと四人を選んで早く出立してほしい。何なら、選んだ人の中から責任を押しつけてもいいし」 マルスの最後の言葉に、マチスは天上からの光を見た思いがした。 当然そうしてやろうと思ったのは言うまでもない。 |