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ギア攻略




 ゴミゴミしている、というのがカーラモン達4人がギアに対しての最初の感想だった。

 ギアからえらく細い谷を越えればフォレスチナに抜ける。この頃は、フォレスチナの南部は未開拓だったというから、一山当ててやろうと思っている連中が本腰を入れてついでに逃げ出そうとしているのだ。

「なっつかしーなー。おれ、この谷越えたんだよなぁ。あん時ゃぁ、後ろから魔物の頭にイタズラ書きしたんだよ、そんでものすごい騒ぎになってさぁ……」

 一人語りに入っているカーラモンを尻目に、残りの三人はあまりにも見慣れた人々が逃げ出すようにしてギアの西側へ去っていくのを、あんぐりと口を開けて見ていた。

 今カーラモンが言っていることと目の前のことのひとつひとつがあまりにも一致していたのである。

 やんちゃという一言で済ませられる子供、肝っ玉母さん、今のカーラモンと外見の酷似する姿の男が駆け去ると、その後に後頭部に一つ目の落書きをされた、本当の一つ目の地魔が現れ、追っていた人間達を見失ったのがわかると、あるのかないのかわからない肩をいからせて帰っていった。

「お、どーかしたかい?」

 見事に子供時分の自分を見逃したカーラモンに対して、三人は首を振った。

 何と言ってやっても大したことのないように思えたのだろう。

「じゃあ、ちゃっちゃとやっちままうか。な!」

 意気揚々と村の中へ入っていくカーラモンの後についていくさなか、イラナは思わずこぼしていた。

「あたいら、何やってんだろ……」



 ギアの一家屋にざっと20人くらいの人々がいた。

 それでも魔物のうろつく外よりはマシだと、ほとんどの人は狭さに苦情を言いつつも閉じこもっている。

「あんたら、んーなカッコして何するつもりなんさ」

 イラナの斧を目にして中年の男がうさんくさげにジロジロ見るものだから、人が集まってきた。

「あぁーもっかして魔物ブチ殺しに来たん?」

「おい、本当かよそりゃ」

「だったらとっとと行ってきてくれや。ここが安全になればぁ、なぁ?」

「んん、逃げんのも楽に……」

 ゲシッと蹴りがどこからか入り、あとはボコスカと古典的な展開が繰り広げられた。

 無言で成り行きを見守っていたイラナとゼクだったが、あのリリに比べて平和なことこの上ない。

 カーラモンとガウドは雷撃サンダーの復活がわかると、もののついでのように一応義務的に襲い掛かる魔物を蹴散らして、例の一つ目がたてこもる民家へと押し入っていった。15年前の意趣返しかどうかは、カーラモンが明言していないからどうともいいようがないが、二人のウサ晴らしであることには違いなかった。

 夜中の戦闘のことを気遣ってくれたのか、イラナとゼクはあの二人とは別行動になり、民家の入口を守る役回りとなった。しかし、イラナ達から言わせれば戦闘の方がマシだし、気遣ってくれるのならば馬車に残しておいてくれた方がよほど良かったのである。

 ここ連日の4連戦と移動はキツいものがあったが、もっと苦労している者やリリに残ることであの陰気な空気に感染するのだけは御免こうむりたいと思うわけだから、優先順位を考えれば、やや恵まれていると考えてもいいはずなのだ。

「いいのかな……こんなんで」

 井戸端会議などはイラナの苦手分野だが、相棒のゼクが全くもって喋ろうともしないのだから、仕方がない。喋るということにあまり重きを置かない男なのだ。

「あんた達、フォレスチナに行くのかい?」

 イラナに訊かれた家屋の人々は、総じてビクッと震えて応じた。

 後ろめたいのはわかるが、そこまでされると話しかけてもいけない気にさせられる。

 つつきたがるくせに、つつかれるのは嫌なのだろう。

 イラナとしてもこちらのことをあまりつつかれたくはなかった。

「ウル山にはいつも雷雲がかかってるから行かない方がいいって話さ。それだけだよ」

 言うことだけ言って、イラナは今までのようにゼクと向かい合う形で入口に陣取った。

 注釈を加えるなら、ガウドが雷撃サンダー修得のために篭っているからちょっかいをかけるなとでも言っておきたかったが、何とはなしに憚られた。

 谷を越えてプラムへ行けば四歳のイラナがいる。そればかりでなく、各地に皆の小さい頃の姿があるのだ。

 イラナは別に今までの中で悔いることなどなかったが、やり直したいと願っている者は少なからずいるはずなのだ。

 リリで壮絶な場面に出くわした(と聞いた)シーナはその筆頭だろう。今でこそ力を得て魔法使いとして前線で張っているが、なかったことにしたい過去であることには違いない。

「…………。
 考えるのはあたいの性じゃないよ、全く」

 言外にあるのは早く帰ってきやがれあの野郎、である。

「いっそのことあっちに行ってみるかな?」

 言うイラナに、ゼクは曖昧に首を振った。

「……わかんないねぇ、あいつの考えてるこたぁ」

(後略)





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