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リリ後略




 竜の年風の月25日、陽が中天にさしかかる頃リリ砦の入口に12人が集まっていた。

 地魔と天魔と人魔がいるという情報(これは15年後に残っている記録と一致している)に、忠実に対抗した面々は以下の通り。

 先発・地下層にアルディス・ジェニス・ファーミア・アーバルス。

 次発・階上層にカーラモン・イラナ・ゼク・ガウド。

 後発・奥陣にシーナ・ワイル・パピ・トリアス。

 この面々でかつて(といっても数日前の話だ)ダルカンがひとりで、しかもたった2日で陥落させた砦を、個々は遠く及ばない集団ができれば1日で陥とさなければならない。

 可能か、不可能か。

「こんな言い方は嫌だけど、この場はフォレスチナの“騎士”に託すわ。速攻で済ませてわたし達を助けてほしい」

 真剣な眼差しのシーナに対して、アルディスは無言で頷いた。

 「火」の力を持つ者だけが天魔に対しての有利を持つことは否定のしようがない。天魔が生き延びる時間が長ければ長いほど「土」の力を持つ者はもちろん、同属性の「風」も苦境にさらされる。

 総力戦と目されたが、パイン達の姿がないのは足手まといというよりも念の為という意味合いが強い。

 しかし、非常に不満そうな顔をしていたのも確かで、こちらに来てからというもの、まるで出番がない。ボアでの事など、ただ「水の門」を開けに行っただけじゃないかと言うのである。父であるエルファリア王ジョゼルと対面したからこそ、戦いの出番がない事に苛立ちを感じるのだろう。

 だが、敵がそんな感情を意に介することもなく、リリ砦の前にはこの時代に来てからふたつ目の「門」が立ちはだかっていた。

 ウインドの無害版、と言えなくもないが通れないのであれば立派な障害物で、これが入口いっぱいいっぱいに陣取っているのだ。

 シーナは嫌な予感がするとばかりに顔を大きくしかめて、眼前の「門」を睨み据えている。手には「風の印」。竜巻を模したそれを近づけるだけで「門」は消えるらしい。

 シーナの左ではアルディス達が、右ではカーラモン達が既に準備を終えていつ突入してもいいように構えをとっている。

 誰かにこの不安を訊くわけにはいかなかった。きっと、後ろのワイルたちも彼らと同じ面持ちをしているだろうから。

 こんな予感は、間違いなのよ。

 シーナが「印」を掲げると光を放ち、「門」を霧散させていった。

 「門」が消えると同時に、アルディスとジェニスが共に駆け出す。魔力所有者は肩の上である。

 そのすぐ後ろにカーラモン達がついた。シーナはまだ追ってきていない。

 来させてはいけなかった。

「次発隊、中に入り次第正面突破をかけろ! 我らは右へとゆく」

「任せろってんだ!」

 威勢のいいカーラモンの答えに、アルディスは口の端だけで笑った。

 砦を囲む壁を過ぎると居住区がある。そこをまっすぐ駆け抜けて行けば砦本体だった。

 彼らの侵入を聞きつけてか、住居の窓からいくつか顔が覗いている。

「いいの? あれで」

 全速力ではないため、ジェニスには口を利くくらいの余裕があった。

「急がなければ、帝国はあらゆる因縁をつけて粛清をかけてくるだろう。それに対抗する力はない。できる事は、一刻も早く魔物の親玉を潰すくらいだ」

 “救わなくてはならない命がある場合”は別だが、今のところそうした人間はいない。何も知らない者から言わせれば、エルファリア王ジョゼルさえも見殺しにしたくせに、ということになるのだろう。

 砦の内部に躍りかかるや否や、アルディスは先に言った通り右へ折れた。

 だが、その先には何もない。三方は壁である。

 他の三人は何も言わない。アルディスだけが左の壁に向き合った。二人は既に肩から降りている。

 一度息を落ち着けて低く構えると、下、上と壁に蹴りを浴びせて、とどめに左の肘鉄で壁を打ち砕いた。

 左側から軽く口笛や歓声が聞こえる。後から来たカーラモン達だ。

 アルディスは少し苦い顔をする。

「そんな所で足を止めているなよ!」

「わぁってるよ、技師の旦那」

 そう言ってカーラモン達は砦の奥へと消えていった。

 聴いていたファーミアが目を丸くする。

「技師、ですか……」

「器用って言いたいんでしょ。格闘の心得があるなんて聞いてなかったけど」

「何でもあり、というやつだろうな」

 アーバルスの発言に、もっともだとジェニスとファーミアは頷いた。

 アルディスが砕いた壁の奥には天魔がのびていた。待ち伏せのつもりが、破砕した際にそこに居たせいで巻き添えをくったのだろう。

「幸先は良さそうだな」

 このアルディスの言葉に、三人はそろって肩を落としたものだった。なんて呑気な、と。

 壁の残骸と天魔を取り除けると、地下へと通じる階段が姿を現した。

 階段に一番近いファーミアが顔をしかめつつもしきりに鼻を動かす。

「嫌な臭いがしますね。……何でしょう、これ」

 言われてみればと、ジェニスとアーバルスが顔を見合わせた。

「もしかして……ねぇ、アルディス」

「砦に必ずある物を考えればわかる。今や魔物が統制を敷いていることも含めれば、この状況の答えは出るはずだ」

 ぴしゃりと言い切ってアルディスは先に階段を降りていった。

 一切の暗闇だが、アルディスには何も影響しない。後ろから追うアーバルスが火の魔法で灯りを作ってジェニス達を助けている。

 アルディス自身はエルファリアの戦法のあり方など知らなかったから、こうして隠し部屋を作ることそのものの的確な答えは言わなかった。しかし、その考えを魔物が利用しているとなると……。

 階段が終わって地下に着くと、早くも天魔の洗礼がアルディスに襲いかかってきた。

 ウインドが集中して来るものの、槍を振るうまでもなく、右の掌だけで抑えて消滅させた。何もこれはアルディスの専売特許ではなく、「風」に対する抵抗力が生む結果である。ただし、まれに守りきれない時もあるが。

 追いついた三人がアルディスの背後につく。が、それぞれ鼻と口を布で覆った。

「粛清の犠牲者……?」

 ジェニスの問いかけにアルディスは頷く他になかった。

 中には生きている者もいるかもしれない。だが、この中で果たして何人が魔物が跋扈するさなかで食事もなしに1週間以上も生きていられるだろうか。それでなくとも天魔が死者を喰らっていくというのに。

 ここは牢にしては広大な気もしたが、とりあえずはその点を考えるのをやめた。

 アルディスは左腕をすっと下げて、掌中に槍を出現させた。未だ慣れ難いとばかりに、ファーミアが息を飲む。

 今回の槍は今までと違って細身だったが、室内ではこの形の方が適していると言える。

「アーバルスは前方以外の敵をファイアーで吹き飛ばせ。とどめはいらん。

 ジェニスは俺の右で万一の時に備えつつ全力で来い。遅れるな」

 次いでアルディスはファーミアを呼ぶと、前を向いて左前方を指さした。

「しばらく行くと行き止まりになる。そこまで全力で走れ。俺よりも先に」

 ファーミアではなく、ジェニスが抗議しようとしたが、その前にアルディスがファーミアの杖に指をついた。

「我の守護、彼の者の全てを守るべし」

 見た目には何の変化もなかったが、ファーミアの右の方で何かが弾ける音がした。

 とん、と彼女を押し出すと、ファーミアの周りでバシバシと常に何かが砕けていく音がする。

「早く、そのまま走っていけ!」

「は……はいっ!」

 ファーミアの走るスピードはどうしてもアルディスからすると大きく劣る。15歳の少女であることもそうだが、元々あまり運動向きではない。

「アーバルス、ジェニス。先程言った通りだ、頼む」

 アルディスは闇の中に躍りかかるや否や、槍を数方向に繰り出していく。眼でとらえられたならば、その一突きにあたり一体が床へと崩れていくのがわかるはずである。

 ジェニスがぴたりと右につき、アーバルスは老体をおして自分達の後方をファイアーの帯で囲い、さらに内側から魔法を球にして撃っていく。

「老師はなかなかの巧者ではないか。人の悪い」

「おぬしを見ておれば、嫌でもかきたてられるというものじゃよ。負けるわけにはいかん」

 アルディスとアーバルスは別々でありながら、全く縁のない「火」について考えていた時期がある。

 この様子だと、アーバルスは既に割り切っているようだった。

 フォレスチナの賢者が魔法を放つと、暗い地下が一気に照らし出された。

 動かない者、動く者。この二者にのみ分類される地下内は予想された程の惨殺は行われていなかった。

 ただ、連行された者のほとんどが衰弱している。ファーミア達の治癒魔法を使えば少しはまともに動ける者もいただろうが、4人の僧侶がここにいる全員を救った時には、彼らが戦力にならない程に消耗してしまうのも目に見えている。

「皆さん、早く!」

 ファーミアの声に三人とも弾かれたような反応を見せた。

 ジェニスとアーバルスは走り、アルディスは吠えるように問いかけた。

「何があった!」

「な、中で人の声が!」

 ファーミアは行き止まりの右側の壁に張りついている。うまいもので、守護を受けるファーミアの後ろ――つまり隅について、追いついたジェニスとアーバルスも守っているのだ。

「あの向こうか」

 アルディスが目を向けた途端、彼の耳がその向こうの様子を聞き取った。

 女の声である。

「がんばってね、シーナ。エルファリアのために……」

 そして、何か大きなものがのしかかる音がした。

 シーナは両親を殺されたと言っていた。これがその時なのだ。

 起こるべくして起こる事に手加減など有り得ない。

 未来とは、彼らにとって未だ既製の事実だった。



 時は少し戻る。ほんの少しだけ。

 シーナは、カーラモン達に続いて門を抜けたが、先には進まなかった。

 いぶかるワイル達を尻目に、ひとつの住宅へと足を向けていたのだ。

 ここに来るまでの道中で夢を見た。何か重要な事を聴いた気がする夢。だが、あれは夢とは言い切れないとシーナの中で警告が鳴っている。

 砦は帝国によって破壊された。国民勇士がギアを拠点とした抵抗軍を作った。小さい活動を繰り返してゆき、その中には“風の唄”もあった。この活動があって、初めてこの16人は集まった。そう思う。

 ウインドの魔法は誰にも習わず、修行もしなかった。ただできたと言っても間違いではない。そのうち人々から噂されるようになった。『あの子はすごい魔法使いなんだよ』。言われた頃こそ自分が誇らしかった。エルファリアを愛する自分に最もふさわしい魔法が元々才能として備わっているなんて、と。

 だが、それはかえってフェルを頭に戴く抵抗軍にとって勢力二分の危険をも持つようにもなったのだ。

 一時は魔法を封じてもらおうかとも悩んだが、それだけは譲れないと思う方が強く、有事の時以外に使うのをやめるにとどまった。

 そして、シーナは向かう。

 家はそんなに遠い所ではない。よく憶えている。

 聖地。グリーンジェム。「風」の安定。

 今まで風の力の源が破壊された場所にしかいなかったが、今はそうではない。魔物に制圧されて力を失ったとはいえ、再び力を取り戻すことができる段階にある。そのためにはグリーンジェムが要る。

 そう、家にあったはずだ。父が持っていた。

 父はエルフ山で「風」の魔法を修行していた。そこで拾った、と。

「これで、風は安定する」

 確信を持って呟いたこの時のシーナは他のあらゆる事を失念していた。

 他の誰かがそれを見たならば、最悪の事態だけは避けられたかもしれない。

 だが、出会ったのはシーナになってしまった。

 止めようがなかったのだ。

「……勇者様!」

 そう言って、青の法衣をまとった壮年の男がシーナの足元にひざまづいてきた。

 シーナはすぐさま拒絶の反応をとる。

「いえ、わたしは勇者などという者ではありません」

 父と母が死に至る原因となった存在なんかではない。自らの内に向けて強く力を込めて。

「しかし、エルファスに現れ、マカルまでを魔物の手から解放されたと聞き及んでおります」

「はい、……確かにそれは我らの成した事です。

 お立ち下さい。そうされているとわたしが困りますから」

 シーナがしゃがむと同時に、男が顔を上げた。

 目の合ったシーナは即座に動くことができなかった。

「あなたは……」

「わたしは「風」の修行を受けた者です。勇……いえ、あなたに強い「風」の力を感じます。お若いのにすでに「風」に認められているとは……さすがエルファリアを救われる方です」

「いや、あの、わたしは」

 もどかしい。

 どうして、こんなに言葉が詰まるのだろう。

「あ、申し訳ありません。こんな所に足止めさせてしまって」

 男は懐から掌に収まる程の物体を出した。

「あなた方のお役に立てればよろしいのですが。お持ちください」

 シーナはまだ動けずにいた。

 男が手にしているそれこそがグリーンジェムであることがわかってもなお、手を出す気がしなかった。

 もっと長くこの場にいたい。

 生きている父がここにいる。

「これは、わたしがエルフ山で修行をしている時に手に入れたものです。「風」をより助ける力を持っています」

 知っている。たくさん、山にいた頃の事を聞いた。他の人から見たら辛いだけかもしれないけど、そんな事はないって。結局風の魔法を使えるようにはならなかったけど、元々荒事に向いていないからで、治癒魔法で多くの人達を助けてきた。今身につけている「風」の法衣はいつか現れる後継者に――。

「ラの祝福が彼の者にありますように」

 男の左手から、シーナの右手に「風」の珠が移ってゆく。

 暖かい両手が、祝福のためにシーナの手を包み込む。

 そして手は緩やかに離れて、穏やかな微笑みを残し、男は後ろを向いて歩き出した。

 その先には、シーナが暮らしていた家がある。

 あれは、いつのことだっただろう。

 父が隠れるようにして帰ってきて、その直後。

「いや……いやぁッ! 行かないで!」

 シーナが駆け出し、届かない父の背に手を伸ばした、その時。

 家から異形の手が伸びて、父を引きずり込んだ。

「父さんっ!!」

 叫ぶと同時に、シーナを中心としてウインドが沸き起こる。

 それを察した魔物が四方からサンダーを放つが、「風」によって全て返り討ちに遭った。

 すかさずシーナは家に向かおうとしたが、そこから悲鳴が聞こえたのと仲間の手によって制止せざるを得なかった。

「離して!」

「駄目だ、あんたはまだ「風」の力が不安定だろうが」

「今は行くべきじゃない。今は……」

「どうして?! 父さんと母さんと助けないと!」

 ワイルとトリアスは引きとめながら、胃の底から苦りきった顔をするしかなかった。

 シーナが勇者を嫌うようになった理由は今までさんざん聞いてきている。

 しかし、“勇者”がシーナ自身だったとは……。

「あんたの話じゃ、両親は魔物が連れ去ったんだろ。だったら、ここから一刻も早く魔物を追い出すのが先決なんじゃないのか」

 ワイルはそう言いつつも、シーナの両親が生き残っている可能性が限りなく低い事をひしひしと感じていた。

 ここまでは歴史の通りに事が進んでいる。今回もおそらくは例外になり得ない。

 それでも、今は前に進まなければならないのだ。

 シーナは硬い面持ちで地面を見つめていたが、ふと顔を上げた。

「行くわ、それがわたしの役割なら」

 だが、その表情は決意と運命への妥協の狭間に揺れていた。



 時は、戻る。

 地下のアルディスは、一階の時と同じ要領で壁を破った。

 すると、無数の虫――天魔が這い出し、それとはっきりわかる腐敗臭が強烈に全員の嗅覚に襲いかかった。

 それらに対して顔色ひとつ変えずに、アルディスは三人に向かって言った。

「ここの人達を頼む。それから、この入口から出てくるものを全て排除してくれ」

 三人に一切の反論がないのを認めると、自ら開けた穴へと入り込んだ。

(後略)



 天魔がすぅ、と姿を消していくと同時の頃合、カーラモン達は二階から屋上へと飛び出した。「風」の流れが強くなっている今では、アルディス達が天魔を倒すまでは身動きを取るのが危険だと判断していたのだ。

 ここまで八時間も二階で足止めをくっていただけに、その攻撃の手も早かった。というよりも、強引だといった方がわかりやすかったかもしれない。

 最近出番が削られっぱなしのイラナとゼクだが、今回ばかりは前へ前へとでしゃばった。ガウドの雷撃サンダーがこの「風」のせいで使えなくなったのだ。原因はわからないが、カーラモンの「最近おかしいから」という一言でカタはついたのだった。

 それで納得してしまうのもおかしな話だが、時間がない事実が迫っている。現時点で26日、4つの村と首都ひとつを解放した上で寺院も制圧する――それが3日後の日食までに本当に間に合うのか? それを脳裏によぎらせると、議論をしている暇はなかった。

 イラナもゼクも元々は斧を使って戦う人間ではなかった。方や海女、片や樵として生計を立てていたのだ。だが、フォレスチナが完全に帝国の手に落ちる直前にカーラモンがガウドを連れて現れた。

 正面きって帝国と戦うのは無理だが、それでも人々の生活を守りたいと言ってきたのだ。

 街道以外にもどうにか人の通れる所は存在する。そこを守り続けることで人々の手伝いはできないものか、と。

 実際にできた事はあまりないが、一月にも満たない期間で実戦だけは多く積んだ。だからこそ、この中に名を連ねられているといってもいい。

 武器を手にして主に戦う八人の中で、腕力ではかなりの優位にあることが唯一の武器でもある。“メルド”の力は借りているが、その自信が押し進めているものもある。前衛がふたり揃って一撃の元に敵を屠るのは彼らの専売特許である。

 ただ、攻めても攻めても屋上から階下に向かうことができない。

 冗談か何かとしか思えないくらい次から次へと地魔が湧いてくるのだ。

 それでも彼らの動きはまだ力強さを保っている――が、これはどうにもおかしいものだったし、いつまでも斧の刃が切れ味を鈍らせていないのも奇妙だった。

「カーラモン! ガウドのおっさん! まだかい!?」

 イラナのがなる声も求むべき相手に届いているのかどうか怪しいくらいに、周囲は包囲されている。

 いつのまにか背を守り合っていたゼクと力を合わせて体力の限界に挑むしかなかった。

 地魔を消していくごとに、「水」が溜まっていく。

「ちくしょう、何だってんだ」

 口を利けば利くほど、消耗がひどくなるのはわかっているが、不安が訴える。

 待っていた時間よりもはるかに長く感じる戦闘。

 死ぬとかそういったものではない。

 誰かの枷になってはいないだろうか。

 自由を拘束されるのは嫌だ。けれど、人の自由を奪うのはもっと嫌だ。

 そうじゃなかったら、こんな所にはいない。

 甘いのか? 間違っているのか?

 この中でしかと目的を持っている者は数少ない。ほとんどが巻き込まれたと言ってもいい。

「だから何だ! だから何だってんだ!」

「乱す、危険」

 冷静なのかただの口下手なのか、この重要な時にそう言われてしまっては殺意さえもしぼむというもので、イラナは渋々斧を丁寧に両手で持ち直した。

 仕方なく持久戦を続けていると、西側の床が弾け飛んだ。

「爆発!?」

 さすがにイラナ達だけでなく地魔も気を取られたらしく、魔物達はそろってぽっかりと空いた西の穴の淵へと集まった。

 と、イラナは首根っこをゼクにつかまれた。視界が変わったかと思ったら、足が宙に浮いていた。

「何す……」

 抗議を終える前に口を塞がれて暴れそうになるも、イラナはどうにかゼクの意図を理解した。

 されるがままに上がってきたのとは違う階段を下りていく。

 二階に着くと床に下ろされて、影がイラナの上に落ちた。

「ゼク?」

 それを聞き届けたかのように、ゼクは返事もせずにこの階層にいる地魔を倒しにかかる。その奥にその大親分がいた。

「待ちなっ、あたいも」

 立ち上がった途端、両腕を掴まれた。

「離せっ、カーラ……ジェニ、ス?」

 右手後方にジェニスの姿を認め、反対側を振り返るとジーンがいた。

「どうして、あんた達が?」

「迎えに来ました。もう、あれはイラナさんが手を出されるまでもないでしょう」

 ジーンの言う通り、かの親分は魔物を新たに作り出す間もなくゼクの手によって倒れた。

 あの爆発らしきものがイレギュラーに起こったおかげで決着がついた気がしてならないが、これで良しとするしかなかった。

「でも、なんで迎えなんか……」

(後略)





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