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エルファス城下




「ではでは、無粋ながら道化の私が語らせていただきましょう。皆様、御静聴を」

 長身長髪・女にウケのいい顔立ちをしているトリアスは、かしこまって礼をした。

 その仕草に、女性達の黄色い声が実にかしましく……つまりはうるさいくらいに発せられた。

 トリアスは余裕たっぷりな態度を見せているが、内心は冷や汗タラタラどころではない。

 急に恋愛歌をやれと言われても、どういった流れでやれば良いのかもわからなかったし、その理由も、この竜の年の風の月においてこのエルファスで、幼い頃のアルディスがそれを聞いた、というだけの押しの弱いものだった。

 断ろうにも、ラゼルを始めとする「歴史の改竄はできるだけ少なく」という強力な熱弁者達に勝てるはずもなく、こうして百人程の聴衆を前にやる羽目になっている。

 壇上に上がる前に、パインはぼそりと言っていた。

「ここに、小っさい時のアルディスがいるってことかぁ……興味あるなぁ」

 トリアスは思わず笑いそうになった。

 彼らの知るアルディスと子供の頃のアルディスはあまりにもかけ離れている。

 それを言ってやろうかと思ったが、パインが念をを押すのが早かった。

「失敗しないでよ。アルディスが聞いた時には上手かったってことだからさ」

「……あのなぁ、もし出来が悪かったらどうするんだよ」

「――だって、そういう話だったし」

「こっちはまるっきしの素人だぜ。無茶言わないでくれよ。今いる道化は俺一人だけど、あいつが聞いたのはたまたま達人が通りかかっていたかもしれないんじゃないか?」

 照れも手伝って一気にまくし立てたが、パインの表情を翳らせる結果になった。

「だったら。……仮に子供の頃のアルディスがここにいてトリアスの歌を聴いて、こっちのアルディスが聴いたのは実は別の人のものだったら――どっちが本当になるのかな」

 過去をいじったらどうなるか。抗うことの難しい誘惑。もう一度戻れたら?

「そんな感じで行けばいいのか……」

 却って何かを掴んだ話を思い出し、トリアスは先程のもやを全て払うように、じゃあんと軽弦器をかき鳴らした。

「あるところにひとりの魔術師がおりました。その魔術師は幼さを残した13歳の姫君に心を奪われ――」

 四素のそろったエルファスのはずれに、悔しげな魔物の影がゆらりゆらりと飛んでいた。





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