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ギア入り




(前略)


 15年前、竜の年 風の月 21日。

 ギアの谷に光が落ちた。

 エルファリアの師匠の元を離れてカナーナに帰る途中、ウッパラーはちょうどギアにいたのだ。

 フォレスチナへ逃れようとする人々の波に乗ろうとしていたところ、脇道深くに倒れる兵士を見つけて助け起こした。

 兵士の傷は深く、手の施しようがなかった。それよりも、とくるみをウッパラーに託して息を引き取った。

 しかるに兵士を埋葬した後、ウッパラーは赤子と共にロマへ帰り、一月と少しの後に生まれた孫の乳兄弟として育てることとなったのだ。



「その兵士が父親かと思ったが、これはちと違ったみたいでな。何としても育てて欲しいと言うのじゃよ。わしもあまり甘いことはやりとぉなかったが、ロマも困窮しとったわけでなし、育てることにしたのじゃ」

 ウッパラーの話を聞き終えた11人は、複雑に絡み合った命運の前に絶句していた。

「わしは王子として育てた覚えはないが、止めはせん。その道を歩むのも自由じゃよ」

「僕が、王子と決まったわけじゃない。全てがはっきりするまではこのままで戦います。みんなもそうして扱って下さい」

 パインの訴えに多くの者が俯く中、3人が言葉を発した。

「だって、さ。どーする?」

「どうするもこうするも当人が望むならそれでいいだろう」

「あ、あたしも賛成。パインを様付けで呼ぶなんてゾッとしないもん」

 あまり身分にこだわりたくないカーラモン、その種の問題に悩まされたアルディス、離れたくないラゼル。

「今パインを王子様扱いしたら一人で迷子にさせるよーなもんだぜ。後ろ盾が何もないんだしな。そー思ってやることにしよーや」

 現金なもので、そうと決まると他の面々は早々に立ち直った。

「……ゾーラの言ったことが嘘っぱちであることを祈るよ、僕は」



 ムーラニア帝国領内に入り、12人は攻略ルートの方針を定めた。

 ギアの谷を西南端として、東にリリ、更に東に風の聖地ローズ、北にザザ寺院。そこまでが一本道である。

 ザザを取り返してからが一番の難題となる。西にマカル、東方面にムーライン・クリフ・火の聖地ダゴン、北にボア、更に北が帝都エルファス。

「ザザに着いた時までに解放戦線と組んでおかねば、進退の取りようがなくなってしまうだろうな」

 ザザを取り返し、足場を固めたあとは、アルディスは姿をくらますことになっている。魔物をひきつけるのが主目的である。

「旦那、どうしてもそうしなきゃ駄目かい?」

「下手に死人を出すわけにもいかないだろう。容易に勝てない相手なわけだからな。向こうはこちらが誰ひとりとして失われてはならないことを知らないから、それを逆に利用すべきだ」

 言いながらも、あまりにも不利な状況が重くのしかかる。

 この少ない戦力では負ける相手にも勝たねばならない。誰かが倒れたら全てが崩れるくらいもろい、この今が。

 事実上の負け戦を唯一しているアルディスはその痛手をよく知っている。

 長い時を治療に費やしてしまうのだから、それは大きい。

 エルファリア解放戦線。12人の重要な「鍵」だった。



 夕方。イラナは戦斧を手にひとり足を伸ばした。

 今までは木こりの斧で戦っていたが、保母の娘がイラナにとこの戦斧を贈ってくれたのだ。

「“メルド”か……」

 帝国領内の猛攻は想像するに難くない。アルディスやジーン、ジェニスらプロにだけ任せてもおけなくなる。ガウドの負担も減らさなくては、とも思っている。

「見事な斧ですなぁ」

 拡大鏡を手に刃の隅々までも見る老人がひとり、イラナの腰にへばりついていた。

「いやいやこれは」

「あんた、蹴飛ばされたい?」

「ははーあ、こいつはこう……」

 イラナは平手打ちを一発決めた。こうなったら問答無用である。

 ジーンやパインに引けを取らない力だから、もちろん痛い。

「ろ、老体に何をするッ!」

「じゃー、女の腰にしがみついていいってのか。あんたの常識じゃー」

 そんな常識など存在されたら困る。

「乱暴な……もとい、強い女じゃの……。フォレスチナを越えてやって来たかの」

「まぁね。もっと強い連れもいるけど」

「では、これからリリへ?」

 そうだよ、と頷く。

「村長のゴルバという奴にわしの名前を出して会ってくれんかのぉ。ここしばらく会うてないのじゃ。チントが寂しゅうてたまらんと言っといてくれ」

 チント老人はじゃ、と言い置いて去っていった。

 イラナはひとりになりたい気分もへったくれもなく、歩いてきた方向を戻っていった。事は伝えておく必要がある。

(後略)





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