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アデン攻略 南部の一行は5人になっていた。 ウッパラーが地震の報告を持ち帰るために離脱したのである。 一人しか帰さなかったのは、「勇者」の行方を追うにあたって人手を確保しておきたかった故だった。 どうせだったら戦力的にはラゼルに帰ってほしいと思ったカーラモンだったが、前線で動くイラナ達にとっては行動に支障のない若い方がいてくれる方が良かったのだ。 ラゼルはファー町で「分けてもらった」物資の多くと、パイン宛ての手紙をウッパラーに託している。 カナーナの時のように実際にはガメていないのと、人々の「好意」がラゼルを上機嫌にさせていた。 カーラモンに言わせれば「俺らよりタチが悪い」と、いうことなのだが。 「あら、あたしは健気に『いらないものくださーい』って言って廻ってただけじゃない」 「解放の為にって札掲げて脅迫してんのと一緒だっつーの」 「……材料が足りないのよ。“メルド”の」 地魔相手の今は、ガウドの 数少ない本物の戦力の強化は逃すことのできな課題としてのしかかる。エルファリアに入る前に全員が一人立ちしておきたかった。いつまでもアルディスやガウドに頼ってはいられない。 「数を以って勝つ戦いじゃなくて、少機を以って叩く、か」 家屋の裏で座り込む一行に気付いたのか、民家の窓からやや老けた壮年の男が顔を出した。 ラゼルが、カーラモンとのあまりのそっくりさに目を剥く。 「ふ、双子!?」 「馬鹿言うな。あんな老けててたまるかよ。あいつは親父!」 「嬢ちゃん見る目あるねぇ〜。な、弟よ」 窓から向けるその笑みはどこまでもふてぶてしい。 「ふざけんな、何でおれが50の男と同じに見られにゃ……って、何で親父がいるんだ?」 一行はアデン町の空き家の裏で車座になって話しこんでいたのである。 「お前こそ、何でこんな危険な所で座り込んでいる」 「動かなきゃ魔物は寄って来ないさ。それに、居場所もないし」 父親は首を傾げた。 「 「どの面下げて帰れっつーんだよ。特に母ーちゃんに」 子供〜。ラゼルが小声で言う。 「同感同感」 イラナが笑うのと同時にゼクがもっともだと言わんばかりに忍び笑いを見せる。 もちろん意地悪で笑っているのではない。微笑ましい関係が清々しいのだ。 二親がこの戦乱の中で生きていることは奇跡に等しい。12人の中で共に健在なのはカーラモンのみである。それどころか、二親の記憶すらな者もいるのだ。 「てめーら笑うんじゃねぇっ」 「やだねぇ、どこが笑ってるっていうんだい?」 これくらいのおちょくりは許して欲しいというものだ。 そこへ父親が止めを刺しに来る。 「大人気ないぞ、カーラモン。皆さんが親切にしてくれているんだから」 「親父、ちょっとそれはピントが……」 「ごたくはいらん。せめて母さんに顔見せろ。心配してる」 カーラモンが眉をひそめた。 「――何で?」 * しばらく姿を消していた息子の帰還の理由をあれこれと二親は聞き出したが、結果として母は頭を抱え、父・カーラムは紅茶を吹き出しそうになった。 「カーラモン、あんた嘘ついてんじゃないだろうね!」 「つくんだったら、もっとマシな嘘をつくだろーが」 それもそうよねと無理矢理頷く母。 「でも、よく太刀打ちできるものだな。あのエルファリア解放戦線でさえも、帝国に打ち勝てないでおるのに」 5人はここでどう言い訳しようか大いに悩むことになった。 本当の戦力はたった12人ですと言ったところで信頼はされないだろう。 「な、親父、お袋。15年前おれに光ブチ当たったろ。マカルにいた頃」 マカルとは元エルファリア領の町である。 「16人の勇者が現れた日だな」 「これは、俺の予感だけど……同じ風な奴があと3人いるみたいなんだ」 ラゼルやイラナも初めて聞く話である。 「何なのさ、それ」 「ま、聞いてな。あくまでも推測だけどな」 カーラモンは勝手知った顔で棚から地図を取り出す。 「15年前のやつさ」 現在とは異なり、西のエルファリア領と東のムーラニア領とはたった1つの道が通るのみである。 「アデンはエルファリアから逃げてきたのが多かったろ? 暇を見つけちゃ、町のおっさんとかにその時のことを聞いてたのさ。そしたら、目撃者はこの4ヶ所に固まった。残る3つがデマなんじゃねーかって思ったりもしたけど、最近そーじゃねーことがわかったんでね。 おれは何者かに信奉捧げてるわけじゃねーけど、 一行に話は見えないが、4人+夫婦は黙って聞いていた。 「そしたら、他にも現れたわけさ。学者やってたよーなのが突然いっぱしの剣の遣い手になったのが。そいつは今、別んとこにいるけどな。おまけに、四素の魔法を使えるのがその影響で出てくるし」 四素の攻撃魔法はそう簡単に修得できるわけもなく、知られていない。 ラゼルがカーラモンの袖を引く。 「それ、パインのこと?」 「おかしいと思わなかったか? いわゆる本の虫だったんだろ」 否定はできない。それなりに運動神経はあるが、剣技は誰かが仕込んだというわけではなかったのだ。 「まー16だから憶えちゃいないだろうがね。もう一人、これ以上ないほどの証人がいる。親父もお袋も名前は知ってると思うけどな。「赤の騎士」もその1人なんだよ」 夫婦はぐっと息を呑む。 「あの方と話したのかい!? おまえ」 「まぁ……。 つーわけで、敵なしってもんじゃないが、戦ってこれてるわけよ」 不承不承頷く夫婦に、ラゼルが問いかける。 「あの、「勇者」って呼ばれてる……人、に心当たりないですか?」 「あぁ、あいつね。今じゃ色魔呼ばわりだよ」 ちくっとラゼルの胸は痛んだ。その話題の人物はパインの外見をしているのである。 でも、と思い直す。 そりゃそうよ。女のひとさらってるんだもの。落ち着いて、落ち着かなきゃ。 「おばさん、そいつこの町にも来てる?」とイラナ。 「イラナも気をつけた方がいいわよ。もちろん、こっちのお嬢ちゃんもね。物見の塔にいるという話は聞いたわ」 カーラモンの母親に“おばさん”と言っていいのは、昔からの馴染みであるイラナだけだった。ゼクも同様の権利を持っているが、口を利かないのはここでも同じである。 「物見の塔ね……。いつから根城にしてるの?」 「いや、ここが根城じゃないよ。東部をうろついてるみたいだけど――お嬢ちゃんの友達も誘拐されちまったんだろ? 可哀想にねぇ……」 ラゼルは反論するのをやめておいた。面倒なのと共に、このままノせておきたい気もしたのだ。 「やっぱりあたしみたいな細腕で追いかけるのは無謀だったかしら……」 昨日はファーから軽々と多くの物資をせしめておいてこの言い様である。 「嬢――……ラゼル、そろそろ行かねぇか?」 逃げ出したいのが半分と、白々しいのをやめてほしいのがもう半分でカーラモンの中でないまぜになっている。 「もう?」 「逃げられるかもしんないだろ?」 ファーで目撃したイラナの話ひとつだけだが、おそらく魔物だろうと見解は一致している。少なくとも解放してしまえば、かの「勇者」は町に入れなくなるはずだった。 「とりあえずは潰すしかないんだ」 * これまでの解放で時折リシア像を見かけることはあったが、このアデン町では乱立レベルにあった。 いっそのことゾーラというやつは彫刻家にでもなればいいんだと言ったのは、後日この話を聞いたパインである。 曰く、全く同じものを造って飽きないんだから、と。苛々しげだった。 似たような感想はラゼルやカーラモン達の間にもあった。 「なんか、きれいな人でさえきれーにみえなくなるっていうのかな。何か気味悪い」 「ここまでされると気の毒だよな。その妃さんも」 生死の明らかにされぬまま行方不明の王妃。 「生きてたら、悲しいだろうね。手も足も出せないし、さ」 「つーよか、生きてたらそのゾーラって奴に取られてるでしょ。可哀想なのは王様じゃねぇ?」 エルファリアもフォレスチナもムーラニアも王家の血は潰えた。 今までエルファリアが中心になっていたが、帝国打倒の日が来たのなら、その全権がカナーナに渡る可能性はかなりある。 現在、フォレスチナ王侯残党軍中枢戦闘部隊を構成する12人は元の生活を取り戻そうとしているが、そんなものが返ってこないのは承知の上である。 「どうなっちまうんだろーな……この「大陸」は」 今は帝国がエネルギーを向けさせている。が、それが崩れたら。 * ガウドの独壇場は「勇者」を叩き出すまで続く予定だった。 「パインがいたら、逃げてるわね、これは」 こちらを直撃しないとわかっているから、ラゼルは平然としていられるようなものだが、誰にも触れるなとのお達しが出ているため、念のため周囲3メートル以上離れた場所にカーラモン達が立っている。ちょっと寂しい。 「本物のパインはそういう奴だってこっちはわかってるから、それで充分だろ?」 おまけに、本人を知っているというこれ以上とないほどの証人つきである。 「そーいや、ラゼルの苦手なもんってあるのか?」 「そーじとせんたく。嫌いでもあるわ」 「嫁のもらい手来なさそーだなー。大丈夫なのかよ」 「料理は無敵よ。出るゴミもひどいけど」 どんな料理だそりゃ、とツッコミを入れようとしたところで塔の入口が内側から蹴り開けられた。 「仕事1つ上がりっ!」 蹴り上がったままの脚を振り向きざまに地魔にくらわすイラナ。 「行くよっ!」 ゼクは無言のままガウドを担ぎ上げる。 「丁寧に頼むぞ。わし、一応人間だし」 「んなぜーたく言うなよ。お役立ちが」 行こーぜ。カーラモンがラゼルを振り返った。 ラゼルはそれに応えつつも、別の応酬は忘れていない。 「全然お役立ちじゃないね、カーラモンって」 皆して無傷連勝なのだから、僧侶の出番がないのは仕方がない。 「まーな。楽してこその頭領ってもんよ」 「そのうち裏切られたりしないかしら。皆、勤勉だから危ないんじゃない?」 「まーまー、おれだってふんぞり返ってるばっかじゃないって」 ほんとかしらといぶかしむラゼルをよそに、カーラモンは余裕しゃくしゃくで2(+1)人についていく。 物見の塔というだけあって、造りは複雑ではなかった……途中までは。 狭い屋上には、地魔の隊長が暇そうに座っていた。 どうやら、 カーラモンは自分の頭の上にちょこなんと載せている帽子を取って一礼する。 「こいつぁ、どーも。お邪魔してます」 何言ってんのよ、とツッコんでやりたいラゼルだったが、イラナに先手を打たれ――口を塞がれ――ていた。 「ちっと探し物してるもんで」 「人間も暇なものだな」 「へい。困ったものですから――「勇者」が。まーそれはこっちのことなんで、気にせんといで下せぇや」 カーラモンはゼクの持つ荷物の中から鉄の錫杖を受け取って魔物に向き直る。 さてどうするかと思った時、変化が生じた。 突然、隊長の足元が 「な、何ィッ!」 「馴れ合いになったのを咎められたっぽいな……」 ウッパラーはこの場におらず、並の魔物では隊長クラスを凍りつかせることはおろか、そのことさえも考えつかない。 そんな彼らの上司。 「地魔導師がいるのか! ……ついてねーなー……。とりあえず、ガウド!」 「 気の毒だが、それだけの大物がいるとなると用済みである。 とどめに黒焦げの隊長を錫杖で突き落とす。 「けどよー、こりゃチャンスだぜ!」 地魔導師がのこのこ現場に出てくるのもマヌケな気もするが、この国を支配する元凶を倒せば「勇者」も消えるだろう。一石二鳥である。 本来であればこの地魔導師を倒すのは王侯軍――もちろん「赤の騎士」である――に譲らなくてはならなかったが、絶対的な「ラ」の不利によって誰がやってもお咎めなしとなっている。 隊長が隠していた階下への穴へ、二人ずつ飛び込む。 最初がラゼルとイラナになったのは偶然だった。 が。 「また現れたか! 偽者め」 また「勇者」が女を抱き寄せて喚いている。 「なんであんたなのよ! 地魔導師を出しなさいよ! 雑魚には用はないの!」 「何を! 小娘、たかが偽者の「勇者」が」 「……言っとくけど、誰もそんなの名乗ってないわよ。恥ずかしいからね」 称号として与えられる「勇者」は16人。遥か15年前に現れ、消えた彼らのみ。 それを名乗るということは、人の歩いた軌跡を追いかけるだけである。 12人の誰ひとりとして、そんなことをやろうとはしていない。 「ラゼル、雑魚でも何でもとっつかまえることには変わんないよ」 「そーね」 「……くっ、小生意気な」 「勇者」は女を抱えたまま、南の穴へ飛び込んだ。 「いつまでも逃げてんじゃないよ!」 二人が飛び込もうと穴に駆け寄る。 「待てよイラナ、ラゼル」 遅れて来たカーラモンが止めた。また逃げるだけだぜ、と。追ってもどうしようもならない。 「それよか、北の穴は行けなかった所に繋がってるっぽい。隊長がいるとしたらこっちじゃねえか?」 隊長を倒したところでこの騒動の終止符は打てないが、アデンにおける被害は止まる。 残るはギストとフォーレス。帝国領内に逃げた時は“本人”に頑張ってもらうしかない。 ゼクとガウドが追いつき5人揃ったところで、北の穴を覗く。 地魔の寿司詰めがわきゃわきゃと賑わっていた。 「ラゼル、離れてな」 はーい、と壁にひっつくラゼルを見て、ガウドは両掌を穴に向けた。 「よろしいかの?」 「人にゃ、害はないだろ」 「それもそうだの」 暫くの間、塔の一階で * 「勇者」。次にアデンの人々からそう呼ばれるようになったのはカーラモン達となった。 たった5人(実質は3人)で町を取り戻した功績によるものだが、もちろん当人達は気に入らない。 そこで、カーラモン達はある アデン町の悩める人々(主に娘を誘拐された親)を集めて、自らは壇上に上がった。 何をやるのかとイラナ達とラゼルは訝しがったが、カーラモンは大人しく待ってなと言うばかりであった。そのせいで、彼には援軍がない。それでかまわない、と。 カナーナでは軍将だったパインに負けられないと思い、重荷を背負いながら自らの戦いへ赴くことを辞さないアルディスに任せっ放しにするのもまた納得はいかないと考えていた。 僧侶としては生臭もいいところな自分に 支える者としては、この後のことも見せてやらねばならない。 「おれはこうして、解放者として立っているように見える。そのせいか最近は「勇者」なんて呼び名も貰っちまった。だけど、おれはこいつを返したいと思う。 おれの見た目はどうやっても「勇者」なんか似つかわしくねーからな」 俺の弟だもんなー。カーラムが野次って会場を笑わせた。 「息子だ、って」強調するも更に笑いを誘う結果となった。 ま、いいや。と頭をかいて、錫杖を浮かし――。 ドッ、とひとつ足元に突いた。 「聞け、皆の衆! 今、国がこうなっているのは何も上の連中のせいばかりではない。ここにいる者も手は出せたはず――そうではないか?」 杖が聴衆全体に向けられ、じゃらりと鳴った。 そして、もう一突き。 「是正の快僧、ここにあり! 我に続いて国を正すのだ!」 彼を知る誰かが言った――“別人”に見えた気がした。悪童はいつの間にか気に満ちた人になっていたのだ。 |
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