サイトトップおもちゃ箱>ELFARIA「異軸」ピックアップ





ファー後略+ラダでのパイン




 フォレスチナ南部。エルムから南に向かうとその領域に入る。

 街道沿いに南下すると、ファー町とアデン町を通る。そこから北上すればギスト村に至る。ギストを西に行けばラダ砦だが、先の奪回戦の際“極悪な”(パインの言である)自然現象のせいでその道は塞がれている。たかだか5kmの道だが、通れるようになるまでには最低5日を要するものと見られていた。

 この状況に基づき、無理せず南部攻略に当たるようカーラモン達に伝えに来たのが、ウッパラーとラゼルだった。

「4人じゃあまりにも少ないでしょ、だからあたし達も一緒に行こうと思って」

「そいつぁ、嬉しいんだがよ……嬢ちゃん」

「ラゼルっつってるでしょ。ファーミアちゃんは名前で呼ぶくせに」

 それは実質12人で構成されている中で、パイン・アルディス・カーラモンの次くらいに重きを置いてこの戦いの仕組みを隠された角度から見える非常に重要な人間だからであって、別に年の功とかそういったものではない。

 だが、同い年15であるラゼルとファーミアは女同士の拠り所でもあるのだろう。見つめる相手の決まっているジェニスや1人で十二分にやっていけるイラナとは大いに違う。

「わぁった。じゃ、ラゼル」

「はいッ」

「坊…………パインとか旦那はラダに?」

 うん。と言ったきりラゼルは口を閉ざす。

「何かあったワケか?」

「そうとも言えるが、そうでないとも言えるのぉ」

 ラダで初めて耳にした「勇者」騒動。

 姿を騙られたパインは、自分でその「勇者」を捕まえて潔白を証明しようとしたが、ラダの騎士ふたりに押さえ込まれて現在ラダ砦にて軟禁中である。

「お主らについてゆけば、もしやその「勇者」を見ることもかなうかと思っての。どうせ復旧には老人の手は邪魔じゃからな」

 ウッパラーの場合は、きっかけを与えられたのみであったから、力場関係上不利の「土」の源たるカーラモンの近くにいても全く支障はない。ラゼルは物資の荒稼ぎが主目的である。

 こうして、元々の「土」のメンバーに輪がかかる形で、地魔専門駆逐団は出来上がった。



 フォレスチナの民間戦闘力。軍規とは異なる性格のものではあるが、抵抗の力はある。

 イラナとゼクは若い中で先頭に立つことのできる力量の持ち主であった。しかし、それぞれの郷里の誘いを断り続け、幼なじみのカーラモンの元で気ままに過ごす生活を選んだ。

 そんな彼らはファー町に立ち入るや、真っ先に飛び出していく。しかも、手にしているのは戦斧ではなく薪割り用の斧だった。

 にもかかわらず、行く手を塞ぐ地魔達は一断のもとに撃退されていく。

 退屈しのぎに来たはずのラゼル達の出番が奪われるほど、二人の猛攻は凄まじかった。

 暇なのはカーラモンとガウドも同じだが、結果としてはこれでいいと思っている。

「最近、溜まってたものがあったからな。どーせ明日は休み取れるだろうし」

 町ほど大きな所を平穏に戻すには即日中にはいかないだろう、というのがカーラモンの読みである。

 と、カーラモンの足が不意に止まった。

「イラナ、ゼク、戻れ!」

 怒鳴るかたわら、ガウドを振り返る。

 中年の魔法使いはそれだけで意図を理解し、太めの指で宙に何やら描き始めた。

 やるべきことはやったと胸の前で腕を組むカーラモンをラゼルがつつく。

「どしたの?」

「ちょっとでかい「土」の揺れが来る。あと少しだ」

「何、それ」

 地震ならばフォレスチナばかりでなくカナーナにも余波は及ぶはずだとラゼルは思っていた。

「今んところ四素のうち「土」が強力なのさ。聖地プラムが戻ってから、俺ん中で妙なことが起こって何となくわかるのさ」

 「戻った」時の頭痛はそのためでもあったのだ。

「俺のせいでガウドも変なの身につけちまったし……。あんた達に会うまでは、あんなの知らなかったはずなんだが」

 何もないはずの宙に、ガウドの描いたものが現れ始めた。細かい緑の文字が多くの列を成して、何かを核とするようにぐるぐると回っている。

「すごい……」

 ラゼルは感嘆し、ウッパラーが唸る。

 これは自分達の無力を思い知らされている、そのことに他ならない。

 「戻って」いるにもかかわらず、何の力も得ない自分達。

「そーしょげるなよ。たまたま「土」は力に恵まれてるだけなんだから。「水」だっていい方だぜ。聖地があるんだからよ」

「えーーー何言ってるのよ。「火」も「風」も……」

 火の聖地ダ ゴ ン風の聖地ロ ー ズは帝国領内にある。当然「乱されて」はいるだろうがそれ以上のことはないと二人は思っていた。

 しかし、カーラモンの告げた事実は違った。

「ファーミアが言ってたろ、「天のラ」が弱ってるって。火風の大きな源は、聖地にはないんだ。シーラルがエルザードの儀式を終わらせてから、聖地は壊された」

 ラゼルとウッパラーは絶句する。

 亡霊を漂わせるだけでは飽きたらずに破壊するとは。

「「火」と「風」の源はそれぞれたった一人の人間に託された。「火」は知っての通り旦那だろ。けど、アーバルスのじーさんにきっかけを与えることしかできなかった。騎士のねーちゃんもファーミアも「火」の恩恵はあまし受けてない。当の旦那は基本が破格だからどーにかできてるんだろうけどな。それ考えると、「風」の方はちと厳しいかもな」

 ファーミアからの受け売りだ、と先手を打ってカーラモンは締めくくった。

「なによー、物知りだと思って感心しようと思ったのに」

「大きな世話だ……っと、おさまるまで俺らに触るなよ」

 天と地の場合は団結しても、四素それぞれに別れると吸収の関係ができあがる。

 「水」は「土」に対して、完全に弱い。どんなに逃げても雷撃サンダーに追いつかれる。

 カーラモンは左手の人差し指を伸ばしてあちこちに漂わせ、くっ、と止まったかと思うと、ガウドの作り出した緑の文字球の中に指を突き入れた。

 指先が、抗うように激しく動くが、決して球の外に出さぬよう堪える。

 イラナとゼクが斧をカーラモンの指が指す先に向けて構え、ガウドも何やら唱えている。

 あれ、何。ラゼルが問う。

「継続呪じゃよ。何か異常があれば雷撃サンダーを撃てるようにするためにの」

 推移を見守る三人の顔は真剣そのものであったが、カーラモンだけが余裕面だった。

 不謹慎ねとラゼルは咎めようとしたが、正にその時、カーラモンは球から指を抜いたのだった。

「こいつ、違うわ。本物の地震だ」

 他5人がその意味を飲み込んだ頃、地面は揺れ動いた。

 揺れそのものは弱いものだったが、危うくラゼルがバランスを崩しそうになる。

「ったっ! あ、触ったら危ない!」

 イラナに触れそうになったのだ。

「何言ってんのさ、ほら」

「! キャッ!」

 ラゼルはイラナに掴まれてしまった――が、何も起こりはしない。女戦士の腕にすがりつく形になった少女の身は、何ともならなかった。

 カーラモンが終わらせた時点で、四素の場も解けていたのだ。

「カナーナっつうのは、そんなに地震のないとこだったの?」

「15年くらい前は、起こっていたんじゃがな」

 そうとなると、犯人はひとりしかいなかった。

「シーラルか。……ガウド?」

 カーラモンの呼びかけにガウドはあいあい、と応えつつ先の雷撃サンダーを奥の民家の出入り口へと向ける。

線雷ライトニング

 しすぃーーー細い音を立てて、魔法の線は民家へと吸い込まれていった。

 わずかの後に、また地響きが町を揺らす。

 そして、魔物の断末魔も。

「一発上がり、ですな」

 魔物の隊長を遠隔の魔法一発でどうにかしてしまったのを、指一本立てて片づけてしまった。

 ガウドがその指を下ろそうとしたところへ、6人は異変を察知する。

「その家の地下!」

 カーラモンの叫びと共に、残る5人も家屋へ押しかけた。留守状態であるのをいいことに勝手に突入する。

 そして。

 6人の突入した先、もう一方の地上出口に至る階段でこともあろうかイチャついているカップルがいた。しかも、男の側はとても見覚えがある。

「パ・パイ、んふゅ」

 大声で呼びかけようとするラゼルを残り5人がかりで口を塞ぐ。ついでに押さえ込まれた。

「落ち着かんか。わしらはパインをラダで見届けたばかりじゃろ」

「多分、あれが「勇者」だね」

「変装……よね?」

 だろうね、とイラナは頷く。

「そろそろ、行こう」

「捕まえんのか?」カーラモンが問いかける。

「無理だね。この先は逃げ場がないはずだけど……あいつ、こっちに気づいてる。それでも余裕で女の腰に手ぇ回してるからね」

 逃げる手段があるというのだ。

 6人が暗がりの中からのそりと階段へと近づく。「勇者」と女が立ち上がって、階段を上がっていった。

 イラナ達が駆け、階段を抜けた先の神殿へと躍り出た。女の衣服の裾が出口にちらと見えた。

「早い!」

「何をやっとる、人間」

 低い声がイラナを引き止めた。地魔の隊長がのそりと立ち上がり、あっという間に視線ははるか上から見下ろされる形になる。

 が、イラナはそれを無視した。

「ガウドっ、頼んだよ!」

 ガウドが何か言ったのはわかったが、それどころではない。

 雨降る小島へ飛び出すと、偽物のパインと女は寄り添ってかき消えるところだった。

「くそッ、魔物か!」

 瞬間移動の芸当は、人間には持ち得ない。

 魔物の力(乱れた「ラ」)が場を占めている限り、瞬間移動は可能の範囲である。

 「勇者」の正体が魔物だったとは、とんだお笑い草であった。

 だが、ぺーぺーの魔物が悪戯目的でやるには、あまりにも本気すぎる。権勢を持ち得ているにもかかわらず寂しい思いをしていて……と思えるのだが。その上、魔物に娘がさらわれたとわかったら、恐慌を起こす親が出かねない。

「知らない方が幸せかもしんないね……」

 雨が上がり始めようとしていた。



 ラダ砦の一室で「勇者」そっくりの少年はぶ厚い本を相手に一日を過ごしていた。

「本当に、パインさんそっくりです。奴は」

 少年は本のポイントを紙に記しながら、男女――かの夫婦の相手をする。

「でも、何で僕なんでしょう。僕はカナーナの一国民にしか過ぎないのに」

 カナーナ解放の立役者という肩書きは、フォレスチナにおいては半分は無効だと思っているが、実績の方が放ってはくれなかったようだ。

(後略)





INDEX




サイトトップおもちゃ箱>ELFARIA「異軸」ピックアップ