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ラダ攻略前




「俺らさぁ、ちょっとウサ晴らしに行ってくるわ」

 カーラモンはフォレスチナ南部に地魔がこぞって占領していると聞いて、ふらりと抜け出していった。19日の朝のことである。

 とりあえず、パインとアルディスには事付いているものの、そこで腹を立てたのが支援するエルファリア解放戦線の顔ぶれであった。

 代表として髪の長い男と、やや小柄で目つきの鋭い男が出てきている。名はトリアスとワイル。

 ワイルは短剣を研ぎながら、渋面を作っていた。

「あんたら、少数精鋭で行くっつったろ。一騎当千の旦那はともかく、下手に戦力減らそうもんなら命取りにならねぇか? その……他の連中は」

 アルディスは認識の誤りを正そうと思ったが、ややこしくなることを予想してそれはやめておいた。

 ちなみに、「赤の騎士」は槍を十二分に扱い、馬を乗りこなし、且つその状態で強大な戦力にな者に対して贈られる称号である。剣の扱いが超一流である必要はない事が盲点となる。

 実際、剣の扱いにおいて未だに勝てない人間がアルディスの目の前にいる。

 ラダ砦兵の同僚でもあったトリアスだった。馴れ合いになるのを避けて、今は互いに口を利かない。

「俺達が12人でこぞってラダに向かえばエルムに隙ができる。今ここを奪われたら、ラダを取り戻せても孤立するだけだ」

「だからって、たった4人で攻め込む魔物に勝てるとでも?」

雷撃サンダーの遣い手がいる。それに、潜入は控えておくように言っておいた。無理はしないだろう」

 エルムでダルカンが見せた雷撃サンダーほどではないにしろ、今までベリーを守りきったという実績がある。

「……じゃあ、あんたら8人で砦の中に潜入するのか」

 入口を閉ざされたラダ砦に入る方法はただひとつ。中庭に掘られた穴から行くのみ。

 砦を占領する魔物の隊長は「風」である天魔二体と「火」の人魔一体。

「もちろん、外で魔物をひきつけてもらう必要がある。砦にいる帝国の戦力は少なくとも二百、多くて四百五十。その大部分を外に引っ張り出すのはラダの残兵と好意の方々だ。1時間だけ保たせてくれれればいい」

 地の利の達人は二人もいる。出るべき時に出て、退く時に機を逃さなければそれでどうにかなる。

「魔物に対するやり方がそれなりにあるのさ」



 慌ただしく移動準備にかかるさなか。中天にはまだ間のある頃。

 アルディスは呼び出されて、宿舎代わりの建物の一室にいた。

 他にはトリアスがいるのみ。

 そのトリアスが開口一番、ひどいことを言うものである。

「お前さ、仮にも「赤の騎士」なんだからその農夫みたいな恰好はどうにかならないか?」

 昨日披露した真紅の鎧はこうした攻めに向いていない。それはそれとして、もっと命の心配をする装備で臨んでもらいたいものである――というのがトリアスの率直な感想だった。

 だが、アルディスは今まで通り黒基調の小者の姿を通すことにしていた。

「どうにもならないだろう。この一月近く実に多くの連中から狙われたんだ。鎧が邪魔になる時もあることをよく学ばせてもらった」

「狙われた……か。カナーナもお前にとっては安息の地じゃなかったんだな」

(中略)



 突入目前。

 一組の男女が8人の居並ぶ前にやってきた。夫婦であるらしく、中年の域に入りかけている。

 二人はアルディスとジェニスを視界に認めると、深々と頭を垂れた。

「騎士様方……よく戻られて……」

 この男女、二人にとっては顔馴染みである。

 砦の内壁で暮らす夫婦で、年頃の娘が一人いる。

「陛下が散り、アルディス様までも帝国に殺されたという噂が立った時は、未来が絶たれてしまったと思ったものです……」

「こ、これ、わざわざこんな所で言うものでもないだろう」

「あ……申し訳ありません!」

「いえ、そういったことが起こるのは戦時の常ですから。

 して、何かありましたか」

 雨に濡れた二人の顔は別の理由で痛々しそうに見えている。

 ここで娘さんはなどと問いかけてはいけない。

 二人は明らかに喋りたがっている。

「あの、「勇者」と呼ばれる方をご存じでしょうか」

 この時までに世間に通じる”称”を持つのは12人中6人。だが、そのいずれも「勇者」ではない。

「心当たりは……。どのような方ですか」

「長い金髪の剣遣いで、中性的な方でした……」

 その語り口はあまり快いものではない。

 ジェニスがアルディスにだけ聞こえるように呟く。

「パイン、かしら」

「容姿だけはな」

 そこまで大仰に呼ばれる人間が何をしたというのか。

「聞けば、あまりよろしくない印象ですが、何か脅かされるようなことでも?」

「はい……」

 大方の予想はつけられないでもない。

 が、それでも訊かねば狂いが生じる場合もある。

「娘が、連れ去られました! 「勇者」と名乗る男に、腰を抱かれるように……!」

 ヒステリックに女が崩れ落ちる。

 男が支える間に、アルディスはある種の伝言をジェニスに託し、2人を助け起こす。

「今、我々は動けませんが、南部に向かっている隊にも連絡を出します。もちろん近いうちに我々も動きますから」

 女はガクガクとしながらも、アルディスに向かってすがりつくように頭を下げた。

「お願いします、お願いします! 大変な時ですのに、こんなわたしたちの……」

 ひっかかる言葉が次々と飛び出す。

 アルディスは駆け巡る敬意の目が枷になりかねないということを充分に知らされた。

 これなら王を見捨てたことで責められる方がまた機転のきかせようがある。その時は悪者になればいいのだ。その時は。

「隊長」

 アルディスの肘辺りから感じた人の気配はファーミアのものだった。

「そろそろ……」

「すぐに行く」

 ファーミアが頷いて、小走りに去っていった。

 女は青い顔でファーミアを見送っている。

「あんなに小さい女の子が……」

 下手をすると10歳かそこらに見えなくもあるが、実際は15歳である。

「でも、相手は魔物ですものね……」

「そろそろ我らも行きます。ここが終わるまでエルムにいてください。それから捜索に向かいましょう」

(後略)





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