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プラム攻略




 「土の聖地プ ラ ム」は荒れていた。大雨洪水警報ものである。

 高台に成り立つ村そのものが打撃を受け、下手に歩けば地下空洞まで真っさかさまになるという危険区域で、無傷に等しいのは悪天候の大元である神殿とゾーラの立てた女性の像だけであった。

 それをふまえた上で、魔物は出没している。

 12人は土の聖地に乱れ故に雷を警戒しているため、得物を使えずに苦戦していた。

 特に、雷が鳴る度に身をすくませるパインと利き腕を守りに転じたアルディスは、動きの鈍りが顕著になっている。後手を取られることはないが、格差は隠せない。

 高台へと通じる空洞へ入り込むと、半数の者は肩が上がっていた。

「あんなひどいことになってたなんて……! やっぱり止めておけばよかったよ!」

 故郷を踏みにじられたイラナは元から怒りを隠さない。

 カーラモンは肩をすくめて外衣の水を払う。

「あいつらに1人で刃向かっても無駄だ。消し炭にされちまうのがオチさ」

「わかってるよ……。だけど!」

「だから取っ返すんだろ?」

 そうだね。イラナはカーラモンに倣って外衣をはたいた。

 その二人を高台への出口の方からゼクが手招きする。傍らにはアルディス。

「どうした?」

 この問いにアルディスが返す。

「今のうちにプラムの大まかな地理を聞いておきたいと思ってな。俺がここに来たのは一度きりだったから、確かな知識にしておきたい」

「それなら、あたいが先頭を走るよ。そうすれば――」

 アルディスは首を振る。

「なんで?」イラナは拍子抜けの表情である。

「前に「水の聖地ハ ン ブ」を戻した時はここまで酷くはなかった。何しろ、そこにはめられていた「火の印」の大元が不安定だったからだ。今も「天のラ」火風は安定を欠いている。だから、割合簡単だったが……。

 今回は相手が悪すぎる。「地のラ」土水は揺らぎを見せない上に、「土の聖地プ ラ ム」に「水の印」をはめるという強力なタッグを組んだ。それがあの天気だ」

「でも、それとこれとどう関係あるのさ」

 よくわからないなりに同感だとカーラモンも頷く。

「この天気じゃ火炎ファイアーは無理だし、雷撃サンダーは火に油を注ぐようなものだ。幸いにも相手は火炎ファイアー遣いの人魔だから、アイスは効く。

 つまり、ここはひとつ全力消耗戦をやめて速攻をとろうと俺は考えたんだが」

 最高齢の老人に村ひとつの解放を任そうというのである。

「まてよ、あのジィ……学者に1人で行って来さそうとするわけか!?」

「まさか。いくらなんでもそんな事は言わん」

 三人は勢いを削がれる。

 12人で行くのは消耗戦で、1人で行くのも違うという。

 中途半端な人数で行けば今以上の重労働になるのではないか。

「チームワークで何とかしてもらうさ。隊長を叩くだけでいいんだから。

 ただ、1人だけ嫌な目に遭わないこともないが」

 そこへパインが体を竦めながらやってきた。

「天気は……変わらないよねぇ」

「隊長を倒さん限りはこのままだ。いつもと変わらん」

 はあぁぁぁとパインは大きく溜息をついた。

 カーラモンなどは、本当にこいつがカナーナを救ったのかと言ってやりたくなる衝動に駆られる。

 アルディスは出口の方向を睨んだまま口を開く。

「このまま12人で突っ切っていっても、埒があかない。徒に疲れさせるだけだ」

「だけど、単独行動はとれない。アルディスが一番わかっていると思うけど」

 ロス砦の時のような真似はしてはならない上に、不可能事であった。

「だから、パイン4人に任す。魔物の「ラ」からみてもそれが一番いいだろう。はっきりとした事は言えんが、ジーン殿の動きは誰よりも確かだったし、パインも腰は引けていたが悪くはなく……おそらく、あの人魔相手には「水」のラが器用に働くのだろう」

 いつしか、パインが剣を極めた時にアルディスと手合わせをしたら、負けるのはアルディスの方であろうという確信がある。「ラ」の力もその原因のひとつには入るだろう。

 しかし、そのパインは弱々に泣きそうな顔になっていく。

 見ものではあるが、とりあえずそれは置いておかないと事態は進まない。

「雷が恐くては、剣を振れないし魔物も倒せない」

「…………苦手なものがないからそう言えるんだよなぁ」

 アルディスがさも心外だとばかりに反論にかかる。

「言っておくが、俺は非常に水が苦手だ。雨の中での戦闘なぞやりたくもない」

「じゃあ、泳げない?」

「……川越えとかそういうものはやめておきたいな」

 パインが徐々に表情を取り戻す。

 が。

 外野からツッコミは入る。

 他の面々が集まって来たのだ。

 ラゼルが外套を来ながらのが一番手だった。

「どう見ても、アルディスさんの体は筋肉質じゃない。浮くのも大変そうだし……川越えって言っても、色々剣とか鎧とか着こんだままやるのよ。パイン、そんな真似できる?」

 その祖父が二番手に入った。

「それにしても情けないのぉ。ここにおる皆は苦手なものを乗り越えながらやっとるというのに、パインだけが駄々をこねおって」

 そしてオチにファーミアが回る。

「大丈夫ですよ。ここまで荒れる所は他にありませんから。それに、ここの「聖地」がこんなに乱れるのはそれだけ活発な証拠なんです。

 パインさんが苦しいのはここ限りですから」

 放っておけば残りの面々も何か言いかねない雰囲気である。

 イラナがちょっと、と口を挟んだ。

「ここを出て全速力で走れば、そんなにかからないで神殿に着くよ。神殿は「聖地」を抱いているから、雷が落ちることはない」

 ファーミアがくりっと目を丸くした。

「よくご存じですね」

「まぁね。よく聞かされてたから」

 ハンブでは秘密にされていたことが、プラムこ こでは後々に伝えられる形で開放されている。

 最も安定している故がそこにあるのかもしれない、ファーミアはそう思った。

 パインは不承不承の面もちである。

「すぐに……終わるんだね」

 イラナが頷いて保証した。

「行ってやろうじゃない」

 パインは棍棒を手にひきつりながら笑みを浮かべた。

 ヤケである。

 幸い、雷の止んでいる今が狙い頃とみた4人は出口を飛び出した。

 雨で視界の悪い中でも神殿はよく見える。それほど近くでもあった。

 ジーンが軽装のウッパラーを抱え持ち、パインとラゼルの後ろについた。

 一旦立ち止まって、魔物に目をつける。主にパインとラゼルが。

 半径5m以内から遠ざかったのを確認して、4人は再び駆けだした。

 同時に雷鳴が轟く。

「1……2……3……し!」

 低地の木に轟音と共に雷が落ちた。

「雷に関しては高台ここは安全みたいね」

「そ、そだね」

「でも次が来るのもすぐね」

「う、嘘っ」

 現金なもので、パインの足はもっと早くなる。

 急ぎましょう。焦り気味のジーンがラゼルを追い越す。

「ま、まって! あたしは嫌よ! こんなとこにひとりなんて!」

「そりゃあそうじゃなぁ。ほほほ」

 貴重な戦力として優遇されている祖父がめちゃくちゃ憎いラゼルであった。

「ほれ、ラゼル急がんか。火炎ファイアーが来るぞよ」

「わかってるわよ!」

 そんな2人(正確には3人)を置いて神殿に先行到達していたパインは、ようやく剣を抜いた、と。

「う、ぁぁあ! な、何ですっあなたはっ!」

 至近距離に祭司らしき恰好の男が腰を抜かしてわめいている。

 人間がいることを全く予想しなかったパインは、面食らった。

「祭司……の方、ですか」

「そうだ! 土の式守であるぞっ! そ、その物騒なモノをしまえ!」

 当然ながらパインはカチンとくる。

 同じ役割とはいえ、ファーミアとは大違いであるのも促進された。

 その間にウッパラー達も到着する。

 祭司は未だ騒ぐのに忙しい。

「なんですっ、あなた達っ、この物騒な男の手下ですかっ!」

 物の言い方がなっていないにも程がある。

 パインが“物騒な顔”で言い放った。

「こんな奴は放っといて「聖地」に向かう。隊長はそこにいるだろうしな」

「あ、あたしパインにさんせーい」

「儂も同感じゃな」

 すたすたと「聖地」へと降りていく3人。

 目をむいて祭司がジーンにつっかかる。

「あんな達みたいな蛮族が「聖地」に向かうなんてとんでもない! あんた! とっととあの3人を取り戻しておいで!」

 支離滅裂である。

 ジーンは兜の下からできるだけ穏やかな顔をすることに努めた。

「すいません。多数決制ですので」

 要はジーンさえも見放すほどの“救えない奴”であったのだ。

 ジーンは降りながら“霧の大剣ミストブレード”を引き抜く。

 階下の聖地へ降りると、すでにパイン達が魔物の隊長とご対面の最中であった。

 パインは邪魔な外套を脱ぎ捨てて向かい合っている。

 人魔の隊長は全身鎧でやや細身。身の丈が3メートル近くもなかったら、人間にも見えただろう。

「人間か!」

 パインが剣を繰り出すべく前へ斬りかかると、ジーンも倣った。

 隊長の二刀流の剣を二人がくい止めると、がら空きの体に向かって、ウッパラーのアイスが突き刺さる。

 ラゼルが指先から細かい光をウッパラーに降り注ぐ。

「もういっちょ!」

「ホイな♪」

 隊長の八方から氷壁が攻めて、包み込む。

 ラゼルは身を転じて光をパインとジーンに向ける。

「あとはよろしくっ!」

 そう。

 話が終わってしまえばいつもの通りに片はついたのだった。

 刃をふいて剣を収めると、パインは“雷紋列結”の前に立った。

 両手がうずうずした落ち着かない。

「パイン! 妖精珠ジェムは?」

 さすがにラゼルは前回の教訓が生かされている。

「大丈夫、預かって来てるから」

 懐から妖精珠ジェムを出して「水の印」に手をかける。

 ことん。――――すぃん――――。

 しゃおしゃおしゃおしゃおしゃおしゃおしゃおしゃお。

「すっごい変な音……」

「外で何か起こっているのかも」

 途端に、外にいる8人の安否が気遣われた。

 パインは苦い顔になるのが押さえられなかった。

「事を急ぎすぎたのか……?」

 ハンブの時は何ともなかったから同じようにやったのだが、どうにも間違いのような気がしてならなくなってきた。

 「聖地」を抜け、神殿を飛び出す。途中にいた祭司は無視された。

 パイン達の眼前に広がるは、荒れ果てた村の残骸。「ラ」の暴走した跡。

「嘘……嘘だ!」

 ぬかるんだ大地、雷と雨によって消し炭にされた樹々。

 高台と街道を繋ぐ穴も塞がっている。

 ゾーラの造った女性像だけがたくましく生き残っていた。

 「ラ」の破壊力が産んだ惨状である。

「まさか……」

 高台の淵に立って下を覗いた。3人も倣う。

 見覚えのある面々が何やらの作業にいそしんでいる。

「無事だった……」

「待って」

 ラゼルが安堵でへたりこみそうになるパインを支える。

「何?」

「誰かが……いない」

「……誰が?」

 20m下では誰が誰だか見分けがつかない。それどころか、人数の確認も難しい。

「おそらく……あの御仁じゃな」

 学者の絶対条件・目の良さを駆使してウッパラーは断言した。

「よっぽど災難に恵まれてるのね」

「そう言うものでもなかろう。そうでなかったら、外におる人数はもっと減っていたかもしれん」

 が。

 4人の背後で、瓦礫がガチャガチャと動いた。

「村の人かしら……」

 助けにいきましょうよと向かった途端、瓦礫の中から何者かが現れた。

 白くふわふわした人間に近しい二足歩行の物体――これだけなら警戒に値する光景だった――と、その傍らには彼らのよく知る顔がいた。

「! アルディス!」

 従者の成りをした「騎士」は、人間の子供になつかれて肩と頭を占領されていた。

「おお、終わったみたいだな」

「……まぁ、そうだけど……」

「この子か?」

「いや、それもそうだけど、ね」

 どうしても目が白い物体に行ってしまう。

「あぁ、これはこの子の飼っている白毛人型獣ク  レ  イだ。ずっと守っていたらしい」

 子供が歓声をあげる。

「すっごくよく見えるね。いっつも木とかに邪魔されてあっちの方は遠くまで見えないんだもの」

 見渡す先はラダまではっきりと見えていた。

「いつもはどこまで見えていたんだい?」

「セコアのちょっと先まで。エルムは山の中だから元々見えないけどね」

 アルディスは子供に倣って、ラダ砦の方角を見やった。

 時期さえ間違わなければ、あの時から1月経つ前に帰って来られるのだ。

「でも、セコアもラダ砦も暗い雲かかってるね。ここはこんなに晴れてるのに」

 それをちゃんと説明してあげることが、良いことなのかどうかはアルディスもパインもわからなかった。

 子供を降ろして、アルディスは4人に向かい合った。

「木が邪魔に思われるとはな……。強すぎる力は毒なのかもしれないな。カーラモンが聖地の戻ったショックで激しい頭痛に襲われて動けなくなっていたし」

 そのせいでアルディスは生き埋め寸前だったのである。

「ショック……?」

 アルディスは頷くと、先々の風景を見つめる。

 エルムの山とラダ砦に奇妙なものが旋回していた。おそらく天魔であろう。





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