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エルノベミニライブ2017
「王佐の剣」




 眼を閉じる。
 安全区域の更に奥、自身は休息を与えられたその場所からでも前線の「盾」の位置と変わらぬ警戒の意識を試す。
 ややあって、閉じていたそれを開き、次は壁に背を預ける。



 16人の、と頭につけられていても、ジーンにとって勇者という呼称は縁遠い、もっと言えばそれを当てはめられる事に違和感を禁じ得ない。
 カナーナ王国の武道大会に優勝した経験をもってしても、世界を救う最前線の顔触れと並んでしまっては非常に遜色“ある”現状の力量でしかない。
 最初こそ、最果ての里で特殊な武器製法の研究者だという少年の、あまりにもなっていない戦いの術を矯正する役目には当たったが、一同の先頭に立つ少年に対してジーンが教えられた事はそこまでだった。コツを掴み、才能を開花させた天才剣士の生まれは(本人や育った環境で知っている者は居なかったというが)エルファリア王族だったというのだから、あまりにもひどい話である。
 共に戦列で並ぶ面々を見ても、総じていわくつき。王から信頼されているとは言っても、地道に積み上げてようやく近衛兵士として認められるに留まる自らに対し、ジーンの自己評価は決して高いものではなかった。



 そのジーンに対し、他の15人の見解はおかしなほどに一致している。
 その答えは『この一行で貴重すぎるくらいの常識人』というものだった。
 故に、ジーンの意向は少数派の意見となる事もあるのだが、指針を見失いそうな状況ではこれほど有り難い人間もいない。
 しまいには、一行の中で何事か揉めていても彼が通りかかっただけで「いや待てよ」と思い直したという事例すら発生させてしまっている。
 16人というのはそのおおよそが個性的であるが故に、個性を際立たせようとしないジーンは気づいた者だけが感じ取れる絶対の存在感を内包しているのだった。



 そう評価される事がそもそもおかしいというのが、当のジーンの感想である。
 兵士であるからには、常識人なんかより荒事寄りの行動基準を持っているのは勿論のこと、「当たり前の事=常識」なのだろうが自分程度の「当然」は黙殺されるべき大きな事業の最中ではないか、と。
 自分にできる事は限られている。その中で最大限に手を尽くす。それだけだった。



 休息とは言っても、動ける限りは非常事態に備えられるような形を取る。
 不測の事態に備えた経路をケースごと(敵襲、火事等)に頭の中でなぞり直し、自らに起こる可能性を大雑把ながらも成否双方の想定を練り、ひと通り終わってつけていた壁から背を離した時には、その壁はジーンの体温で相当に温かくなるほどだった。
 準備ができたところでジーンは眠りにつく。少しでも異変の足音が響いたら目覚める、そんな眠りに。
 昏睡などというのは、どうしても動けないほどの怪我か、負けた時にでもすればいい。
 ――これのどこが常識人なのやら。



 影ながら非常に頼りにされる近衛兵士の一日は、大抵こうして終わる。

 





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