トップ同人活動記録FE聖戦 風パティ小説 INDEX>六 物とのつきあい方 2



HOLPATTY 6-2




 戦が終わったというのにパティは忙しかった。

 それは、皆に渡される報奨金をもらおうとパティがセリスの元へ一人で赴いたところ、両手をしっかりと握られてしまったことから始まる。

「懲りるってことを知らないんですか? セリス様は」

 パティが咎めるのもかまわずに、セリスはさわやかスマイルをもってして口説きにかかった。

「どんなに足蹴にされようとも諦めないよ。現に想いが通じた人もいるんだから」

 ぽわぽわと何かが湧いていそうな雰囲気でセリスが言うのはヨハンの事である。パティの持ったヨハンの第一印象は「変な人」だったが、ヴェルトマーで少し話しただけで評価は一変した。ちゃんと落ち着いた人というのは、ここまで変わるものかと思ったのだ。

 ただし、同じ事がセリスに当てはまるとは限らない。ヨハンは想いを伝え続けたが、セリスはパティをかっさらって既成事実を作り上げようとしているように見える。

 セリスからしてみたら都合よくやってしまいたいのだろうが、そこは問屋がおろさない。

 と、いうよりパティにも意地がある(その前にホークの存在があるのだが)。

「彼氏のいない女の子なら、周りにたくさんいるでしょ。セリス様が憧れている子なんてちょっと捜せば見つかるんじゃないの?」

 苦しい言い逃れをしながらさりげなく手を外そうとするが、簡単に話してくれそうにはない。

 それどころかセリスの熱がますますこもる。

「パティの言っているような子は僕を皇子としてしか見てくれないと思う。
 僕自身はこれからグランベルの王になる。そんな目で見ているだけの子じゃあ、僕を支えてくれる人には相応しくないと思うんだ」

 偉そうなのもここまでくればご立派だが、仮にも王の自覚があるならそんな発言は慎むべきだとパティは思う。

「あたしだったらどうできるって言うのよ。知ってると思うけど元は盗賊だからね、あたし」

 セリスは侵害だと言わんとばかりの顔をした。

「どうしてそんな事を言うんだ。いくら悪者ぶったって心ある人にはわかるよ」

「わかるって……何が?」

 自慢ではないが、パティがこの軍でやった事と言えばほとんどが褒められるような類ではない。解放軍では悪いように言う人の方が多いだろう。

 しかも、戦場でパティと行動しようにもセリスの役割上それは不可能であるはずだった。まともに戦場で同じ場に居合わせたのは、イードを除けば、あのシアルフィ戦のみである。

 それでパティの事を理解したような面で言われようとは、ちゃんちゃらおかしいというものだ。

「あたし、いいことは何もやってないけど」

「あ、あぁ……だから、その……」

 セリスは考えあぐねる。パティの言う事はほとんどがその通りなのだ。

 もっとも、善悪の尺度は全ての人に同じようにして当てはまるわけではないから、完全に敗北宣言をする必要はないのだが。

 それらしい答えが出てこないセリスの手が緩む。

 パティはニヤリと笑い、こっそりと手を外した。

 そして、拳を握りながら呼びかける。

「セリス様っ♪」

 呼ばれてセリスが顔を上げたその時。

「おととい来なさいっ!」

 セリフに合わせてセリスにアッパーカットをかまし、重い荷物と銀の剣を持って飛び出した。

すでにパティの意志は固まっている。

 何があったとしてもコノートに帰るのだ。

 そのためには、セリスから逃げ切るという最大の難関をクリアしなければならない。

 ……バーハラにおいての暴走はパティが首謀というだけでセリスはあっさりと許してくれた。こればかりは非常にありがたいのだが、今回の事とは話が別である。

 方向転換しようと足を止めると、シャナンがすぐそばにいた。長い包みを持つ中年の尼僧を連れている。

「そんなに走り回ってどうしたんだ?」

「セリス様に追われるの。ほっといてほしいのに」

 尼僧が驚いた様子で口に手を当てた。

「それは本当の事なの?」

「うん……ってあんた誰?」

 無礼窮まりない問いかけをしたパティを、シャナンが叱りつける。

「そんな口のきき方をするな。失礼だろう」

「そういわれても、知らない人は知らない人だもん」

 反省の色が全く内。仕方なくシャナンが謝る。

「すみません、エーディン」

「いいわよ、これくらい。あなた達が小さい時にやってくれた事に比べたらかわいいものだわ」

 妙に割り込む所のない二人の雰囲気に入り込むのが何か悪いような気がして、パティは突っ立ってようとしたが、その背に史上最悪の殺気が襲いかかった。

 振り向く間もなく、両肩をつかまれる。

「駄目じゃないか。勝手に逃げたりしたら」

 もちろん殺気のあるじはセリスだった。

 逃げたとわかっているなら放っておいてほしかった。

 と、エーディンが助け船を出す。

「駄目なのはセリスの方よ。女の子のお尻なんか追いかけ回したら、嫌われるに決まっているでしょう?」

 セリスはきょとんとして尼僧を見た。

「……どうして、ここにいるの?」

「ワープの杖を使ってもらったの。色んな人に頼んで」

「じゃあ、ユングヴィに?」

 エーディンは首を横に振った。

「レスターには黙っておいて。帰るつもりはないから」

 パティはシャナンに目で問いかけた。

 シャナンが小声で返す。

「この人は元ユングヴィの公女だ。パティには叔母にあたる人で」

 続きを言う前にエーディンが割り込んできた。

「今、わたしの事を叔母と言いましたか?」

 シャナンが渋々頷く。

「じゃあ、この子は姉さまとレヴィン様の……」

「ファバルの妹です。

 パティ。エーディンはレスターとラナの母だ」

「……え」

 そう言われて、パティはようやくユングヴィの近くでファバルが言っていた事に合点がいった。

 確かに外見上では、レスターは母親似ではない。だが、この人当たりの良さは似ているといってもいい。

 このまま何もしないのもどうかと思い、頭を下げた。

「あの……はじめまして」

「いいのよ、そんなかしこまらなくて。ああ……ごめんなさい、気づかなくて」

「ううん、別に。用事があったんでしょ、行かなくていいの?」

「もう少し話をしたいけど……少し時間をとらせてもらえるかしら。悪くなければ来てほしいわ。その後になってしまうけれど」

 別に構わないと思い頷こうとした時、肩に手をかけて離そうとしないセリスの事を思い出した。

 少しだけ首をひねって懇願する。

「その手、離してほしいんだけど……ダメ?」

 エーディンのいる手前あまり強いようには言えない。

 セリスもそれをわかってか承知する気配がない。

 が、天罰は下されようとしていた。

 パティ達の来た方向からリンダがやってきた。

「セリス様、お捜ししました」

「どうしたの、リンダ」

「ラドネイやレイリア達が、ここを去る前にセリス様に祝言をあげてほしいと言っているんです」

「今? 僕はちょっと忙しいんだけど……」

「でも、もう迎えの準備は整っているんです」

 と言うやいなやリンダはセリスをちょん、と押した。

 その次の瞬間にはセリスだけが何かに掴まれて、はるか後方へと吹っ飛ばされていった。

 パティには身に覚えのある物の仕業である。

「今の、レスキューでしょ」

「えぇ。丁度良かったでしょう?

 では皆さん、お邪魔しました」

 リンダはそう言って戻っていった。

 相変わらずレスキューの力は偉大である。





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