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FIRE EMBREM 聖戦の系譜 風パティ小説
「HOLPATTY」





  
一 戦わぬ継承者




 グラン歴七七八年九の月、打倒帝国を掲げた解放軍は皇帝アルヴィスが守るシアルフィ城の前にたどり着いた。

 軍将セリスが聖剣ティルフィングを掲げる。

「この城にアルヴィスはいる。……わたしはこの剣で父の無念を晴らす!」

 歴史の証人となる解放軍の面々は打ち震えながら、セリスの口上に聞き入っていた。

 あとはセリスが全軍突撃の命を下すのみ。

「だから、ここはわたし一人で行く」

『え?』

 解放軍の若者のほぼ全員が口を半開きにした。

「わたしだけでどうにかするから、皆はわたしが戻るのを待っていてほしい」

 言い切るや、セリスは勝手に城門を抜けて、城内へ入っていった。

 ご丁寧にも、門は潜んでいるらしい門番によって閉じられる。

「……そうか」

 オイフェが重々しく頷き、あっけにとられている解放軍の人々に向かって言う。

「これはセリス様の意思だ。何者であろうともこれを破ることは許されん!」

 軍将に続いて後見人の目茶苦茶な発言に、ラクチェを始めとするティルナノグ勢が抗議したが、受け入れられる様子はない。

「お偉方も無茶言うよなぁ……」

 周囲の騒然とした空気にかまわず、ファバルはぼんやりと呟いた。

 それを横に立つスカサハが困ったような表情で見る。

 この事態にものんびりしすぎてないかと言いたげであった。

 ファバルはスカサハに問いかける。

「妹の加勢に行かなくていいのか?」

「……別に」

 スカサハは抑えるようにかわしたが、この男には普段から文句をつけてやりたいところがある。こんな非常時だったが、どうしてもそれが先に立った。

 ファバルは聖弓の継承者であるにもかかわらず、物腰は猟師のようで、自覚があるようには見えない。その上、決して聖弓を使おうとしなかった。今も手にしているのはキラーボウだ。

 解放軍に加わってきて少しした頃に聖弓の事を訊くと、ファバルは肩をすくめて返してきた。

『俺はシャナン王子とかとは違うんだよ』

『……』

『当たんないんだ、あの弓』

『当たらない?』

『そう。いちいち光るから使いづらくてさ。鳥は逃げるし。それに、あんな目立つ物で傭兵の仕事もできないから』

 神から遣わされた聖遺物を狩りに使っていたと平然と話すファバルに、その時のスカサハはすぐに言葉が出てこなかった。

 聖遺物を実用だけで使えない物扱いにするというのは、不敬を通り越して、冒涜そのものである。

 第一、大抵の人は無条件で聖遺物に礼節をもって話題にするというのに、この継承者は完全に足蹴にしている。

『言っていい事と悪い事が……ないか?』

『仕方ないだろ。ただ射掛けるだけでいちいち光るものなんか使ってられねぇよ。加護だか何だかでいきなり軽くなるから使いにくいし。まぁ、パティよかましかもしれないけどな。全然使えないものをつかまされたわけじゃないから』

 ファバルの妹・パティは風使いセティの血の系譜を強く継いでいるとされてフォルセティの魔道書を持っているが、使うまでには至っていない。魔法の資質がほとんどないのだ。

 そんな話をぼんやりと(怒りを込めつつ)思い出していると、アサエロがパティを連れてやってきた。

「厄介なことになったな」

「そうだな、保護者も止めりゃあいいのに、よくここまで育ってきてくれたとかいって感動しちまったから」

 いつのまにかオイフェに加えてシャナンまで城門を塞いでいる。

 親バカここに極まれり、というやつだった。

 スカサハはこの批判めいた会話の成り行きを断ち切ろうと、意を決して口を出した。

「でも、今のセリス様ならアルヴィス皇帝のファラフレイムも恐れることはないんじゃないか? 聖剣があるんだから」

「それを持ったシグルド公子は、ファラフレイム一発で消し炭にされたんだろ?」

 スカサハのささやかな抵抗は、簡単に打ち砕かれた。

 その言葉こそティルナノグ出身者にとって禁句である。

 だが、意見は一方的ではない。

「あの時の聖剣は壊れていた。シグルドは聖剣を壊れたままにしていたからな」

 どこで聞きつけたのか背後から口を出してきたレヴィンに、ファバルとパティが鋭く冷たい視線を投げかける。

 やたらと大きい包みを持った、十八年前のバーハラの生き証人は斜に構える。

 ファバルはレヴィンを無視してスカサハに言った。

「悪いけど、あの弓見張っててくれないか」

 ファバルがさしたのはレヴィンが持っていた包みだった。

 この男が言うには中身はイチイバルに相違ない。

「え……!」

「とにかく、頼む」

 困惑するスカサハを尻目に、ファバルはパティ達を引き連れて人のひしめく城門前から抜けていった。

 こっそりと息をつく。

「いくらオヤジだって言われても信じろってのが無理なんだよな……」

 そのレヴィンは唖然とするスカサハと共にその場に残っているようだった。

 パティはファバルの様を見ていたずらっぽくささやく。

「やっぱ苦手だよねぇ、あの人」

 パティが手にしている袋には城外で倒れていた兵隊から盗った金が詰まっている。

 誰に止められても盗みをやめない。どうせ戦争が終わっても復興やら何やらで生活は苦しいのだから、できる限り解放軍に貢献しつつも、蓄えはしておこうという腹だった。

 そして、その蓄えは物品に形を変えて、デイジーの待つコノート郊外の孤児院へ送っていた。ファバルとアサエロもパティには金額で及ばないものの金を送っていたようだった。

「最近母さんの弓使ってないね」

「ちょっと使いづらいんだよ。持ちゃあ重いし、矢をつがえたら軽くなるし……」
 おまけに光るときている。

「ま、そんなので人殺しすることもないよね。人は人の道具で戦うのが一番いいんだから」

 フォルセティの魔道書はパティの手では開かない。使えない者にはそうした態度を取るのだと解放軍の古株達が教えてくれた。だが、魔道書のほうがパティの手を離れることはない。パティがどんな方法を用いても、すぐに手元に戻ってくるのだ。

「で、また何か考えたのか?」

「まぁね。セリス様だったらやりかねないって思ってたから。お兄ちゃんも協力してくれる?」

「今度こそ命張りそうかな」

「多分」

「だったら乗るよ。どうせ他にもいるんだろ」

「あたし達だけじゃ不安だからね。ちょっと急だったから言える人が少なかったけど」

 シアルフィ城の城壁に沿って一度右に折れた西の門に数人の人影がある。

 地に伏しているものもあるところからすると、すでにこちらの門番は片付けたようだった。

 パティが一人の姿を確認する。

「あ、ホーク様!」

 ぶんぶんと手を振ると人影が手を挙げる。

 すかさず駆け寄った。

「よかったぁ、来てくれて」

「この騒ぎは放っておけなかったからね」

 他には、ナンナとデルムッド、レイリアが来ていた。ご丁寧にも騎士の二人は馬も連れてきている。

 パティはちょこんと頭を下げる。

「ありがと、みんな」

 その様子を少し離れて見ていたファバルは、感心して頷いた。

「意外と人望があるんだな……」

 戦場で盗みをしているということで、解放軍の中では嫌われてしまっている、とパティの事を思い込んでいたのだ。

 ナンナ達はともかく、あの賢者と仲がいいのは予想外だった。

「知らないのか?」

 アサエロの呟きに、ファバルは振り返った。

「何が?」

「……本当に知らないみたいだな」

 そう言うアサエロは顎で小さくしゃくってみせた。

 示す先ではパティが満面の笑みでホークと話している。

「年頃の妹の事をあれこれと考えるのは野暮だろうが、無関心にも程があるぞ」

 アサエロの口ぶりでは、パティは相当目立つようにあの賢者と一緒にいるらしかった。

 ファバルの頭ががくりと下がる。

「積極的すぎるぜ、パティ……」

 解放軍にはラヴラヴ全開の人種がいると聞いていたが、まさかパティがそうなるとは……。いやパティだからこそ、ありうるのか。

 そんなことをファバルは思うのだった。





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