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FIRE EMBREM 暗黒竜と光の剣
「買い出し」
1-4





  
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 最悪でも手綱を握れて制御できればいいと臨んだ人捜しだったが、これは実にうまくいかなかった。何せ皆さん動ける人は怪我人の処置で忙しい。

 とてもじゃないが責任を押しつけるどころの話じゃない。

 杖の施術で治療しないと危ない重傷者の中に、カインのようにもう治されている者がいるかもしれないと期待したのだが、最低限の人に元気になってもらったあとは方針を変更して、できるだけ多くの人の命を救うことを大前提にしたようだった。これでは歩き回れる人間を発掘するのは無理である。

 多分、こういうことは人望も左右するんだろうなとマチスは思い知っていた。人望があれば、少しの無理ならきく連中が名乗りを上げるだろう。

 一大事は一大事なのだが、やはりこういったことはしかるべき人が行くのが正しいのである。

 五人は無理だろうと思い、少しでも人を少なくできないかとメモを見る。




・ できればリライブが望ましいが杖の類を十本以上。ただし、リカバーは大抵の場合値をふっかけられるので絶対に買ってはいけない。

・ 薬。現行では軟膏で済ませているけれど、解熱や刃傷に特に対処できるものを、合わせて買ってくる薬の四割は欲しい。聞く限り現在の軽傷者数は(くどいようだが、この場合の軽傷とは杖の世話になっていない、つまりは生死にかかわらない者を指す)、四五〇名余。今度のことを考えてこの五倍は欲しいところ。




 マチスは思わず頭を抱えそうになった。杖はいいとしても、薬の分で荷台が三台か四台は要る。

 さらに追い討ちをかけるべく、カインを伴ったマルスがやってきた。

「その様子じゃ、揃ってないようだね」

「……はぁ」

「一応、いまのうちに命令書と証印と特製インクと専用の押し台を預ける。現金でしか受け取らないのもいるだろうから、二万ゴールドも渡しておく。
 急なことでこれしか用意できなかったけど――」

 マチスはひとつひとつ言われていくうちに、口が塞がらなくなり、そのうちアゴも外れるんじゃないかというくらいに開いていって、髪の方は白くなっていくような思いにとらわれていった。

 内面急激老化を進めるマチスをよそに、マルスは続けていく。

「荷台の空きができると思うから、そっちの仕入れが終わったら即席でいいから剣と槍を積めるだけ買ってほしい」

 老人となりつつあるマチスは、今ここでギックリ腰になれたらどんなに幸せだろうと思い始めていた。

 何かあったら首が飛ぶのは間違いない。遂行だけだったら問題ないじゃないかと言われそうだが、最初から最後まで何があってもおかしくない状況下である。しかも、証書発行などこんな事態でも一騎士、しかもよその国の人間がやっていいはずがなかった。

 崖の上から地獄を見ているような気になっていた面持ちのマチスが気の毒だったのか、マルスは軽く肩を叩いた。

「朗報をふたつ教えてあげる」

「……朗報?」

「ひとつは、カインが君に同行する。まだ治安も不安定だし、何があるとも限らないからね」

 マチスはこの日二度目の天上の光を見た。

 カインが加わってくれるなら、人集めは格段にやりやすくなる。いや、この場で任務の責任者を譲ってしまえばいいのだ。

 が、あまりにも顔に出すぎてしまったのか、それを読んだようにカインが釘を刺す。

「王子から聞いたが、あんた今俺に押し付けようと思っただろ」

「……、そりゃ、こういうのはアリティアのちゃんとした騎士がやった方がいいだろ」

 カインは騎士とはいえ、今や『アリティアを代表する』と付け加えてもいいくらいの騎士である。証書発行には何も問題はない。

 しかし、カインはバツが悪そうに少し頭をかいた。

「悪いが、俺は自分の名前くらいしか書けないんだ」

 元が貴族でなく騎士の身分なら、その程度でも珍しくない。

 証書の発行には、しかるべき紙に証印を特別なインクと押し台を用いて押す。それから相手の名と発行者の名前、金額、用途を記す。

 この最後のが難関になるとカインは言いたいのだった。

 また、悪いことにマチスはそういった条件は満たしてしまっている。

「……まぁ、筆記ならおれがやってもいいよ。だから」

「と、言うよりだ」

 カインは強い語気でマチスの言葉を遮った。

「あくまでもマルス様から命令を受けたのはお前さんだ。俺は責任転嫁を引き受けるつもりはさらさらない。ただ、遂行が厳しそうだから手伝うだけだ」

 要は、引き受けたことはちゃんと自分の責任でやれということらしい。

 言い返す暇もなく、マルスが次の言葉を出す。

「それから朗報のふたつ目は、何らかの理由で金だけを奪われただけなら失敗は失敗だけど、杖と薬があれば命は取らない――他の物は駄目だけどね。金だけを失ったのなら、今度同盟軍がアリティアに留まる一月の間に全額返済してもらおう。二万ゴールドなら、毎日闘技場にエントリーして勝ち続ければ不可能じゃないよ」

 現時点のマチスには不可能なことをさらりと言ってのけると、マルスは証書一式と命令書、ゴールド引き出しの許可証、追加買い物メモを手渡した。

「色々な意味でグッドラック」

 ……本当の悪魔は目の前にいるのかもしれなかった。





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