トップ>同人活動記録>ELFARIA発売15周年記念SS「王妃リシア」
ELFARIA発売15周年記念SS
「王妃リシア」 - 2008.01.03連載開始 - エルファスの城は陥落目前にあった。 援軍の主将を務めた将軍の裏切りによって王国軍の主力は緒戦のうちに壊滅し、侵攻を食い止めようとする戦いの中で王が捕らわれた。 人と人との戦いであれば、ここで戦いは終わる。しかし、魔物達は己の都合だけでエルファリアの王都エルファスまで攻めあがってきた。 エルファリア王国軍にこの猛攻を抗する力はない。 ――もはや、この身はおろか数多くの民も血を流して大地を朱に染めるしかありません。 跪いたままうなだれ、兵士長が来たるべき運命を述べると、王妃リシアは悠然と振り返った。 その表情には、焦りも恐怖も浮かんでいない。兵士長や彼の後ろに控えている侍従、侍女達に向ける眼差しには意思の光があった。 「諦めてはなりません。エルファスに宿る大いなるラの祝福を信じるのです」 その言葉に一同は一旦顔を上げかけたが、苦しげな感情は隠しきれるものではなく、せめて王妃に見られないように再びうなだれるしかなかった。 リシアは一度瞑目すると、毅然とした面持ちを見せ、そのまま彼らの脇を通り抜けていく。 侍女の何人かが立ち上がろうとすると、リシアはひとりの侍女の名を呼んだ。 「イゾルデ」 跳ねるように応じたのは侍女の中で最も年若い、少女とも呼べそうな女性だった。 「わたくしの命じた事、決して違えぬように」 厳しさの混じる科白に、若い侍女は緊迫の面持ちでたった一言の返答をするので精一杯だった。 それでもリシアは軽く目を閉じて聞き届けた証とすると、後は何者をも省みることなく、顔を上げて歩き出した。 城は絶望に包まれている。 リシアとて、この状況を理解していないはずがない。じきに魔物の大群が攻め入って来ようというのだ。講ずるべき手立てがなければ、せめて、兵士達を鼓舞する言葉を発しただろう。 だがリシアは『信じよ』と告げた。今のエルファリア王妃にとって、裏表のない本意である。 ** 続きは後日更新 **
|
トップ>同人活動記録>ELFARIA発売15周年記念SS「王妃リシア」